第2話
――あとは足だけだな。
俺はぼんやりとそう思った。
さらに次の日、その日休みだった俺が部屋でごろごろしていると、なんだか周りが騒がしくなった。
気付けばいつの間にか救急車やパトカーが停まっている。
それに大勢の野次馬もいた。
――なんだろう?
部屋を出てうろうろしていると、大家を見つけて話しかけた。
「どうしたんですか?」
「ああ。402号室から異臭がすると言うので見てみたら、そこの中西さんがベッドの上で死んでいたんですよ」
402号室といえば俺の真上の部屋だ。
でも俺の部屋では特に異臭などはしなかったが。
「異臭がすると言い出したのは、隣の403号室の人です。たとえ死体があっても、階が違えばそんなには臭わないでしょうね」
俺は天井の染みのことを思い出し、大家に声をかけた。
「ちょっと来てください」
「どうしたんですか?」
「いいから。来ればわかります」
怪訝そうな大家を部屋に入れ、天井を指差した。
「あれ、何に見えます?」
大家は即答した。
「足のない人間に見えますね」
「やっぱり。上の階で人が死んだと言いましたね。その死体から流れた体液かなんかが染みこんで、こんな染みをつくったんじゃないですか?」
大家は大きく首を横に振った。
「いえいえ。中西さんはベッドの上で死んでたんですよ。死んでから数日しか経ってないし。真夏だから腐敗は早かったですが、死体から流れた体液なんて、ベッドを少し汚しただけです。あの部屋の床でさえ汚れていません。ましてや下の階の天上にこんな染みをつくるなんてことは、ありえませんよ」
「じゃあ、あれはなんですか?」
「いや……それは」
大家にもわからないらしい。
そして夜に見たところ、足のなかった染みに、右足が生えていた。
俺は急いで大家の部屋に行き、このマンションを出てゆくことを告げた。
終
天井の赤い染み ツヨシ @kunkunkonkon
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