76話
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「悲劇、ですか?」
首を傾げてリフェイルが呟く。後ろではエレミアが不安そうに俯き、それを近くに控えていた侍女が慰めている。その隣のテーブルに席をつくグレイは悲しそうに笑い、向かい合うようにして座っていたディックは目を閉じて耳をすませているようだ。
国王も玉座の背もたれに身を預け、少しだけ上を見上げながら話を続けた。
「そうだとも。これは……ある意味悲劇だったのだろうね。当時の者たちにとっては」
と、懐かしむように憂いの笑みを浮かべながら。
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そんなある日のこと。草原の聖域に一匹の
その竜は翼を器用に動かして娘の目の前に降り立った。彼女が吹き飛ばされたりしないよう、細心の注意を払って地に足をつける。
娘は龍に気づくといつものように微笑みながら彼を迎えた。手を振り挨拶をしたあと、汚れた鱗をきれいにするため住処の虚からタオルをとってこようと一歩後ろに向けて踏み出しかけていく。
そんな娘を呼び止めた竜は、自らが纏っている灰色に近い白色の鱗を少しだけ赤く染め、恥ずかしがりながらも娘に向かって言い切ったのだ。ありったけの思いと恋心を言葉に全てのせて。
そう、この竜は不死鳥の娘のことを好いていたのだ。小さい頃から暖めていた恋心という自身の想いを伝えるために、この草原に降り立ったのである。
・・・けれど。
娘は痛みをこらえるような笑顔でその告白を拒絶した。
受け入れられず固まる薄灰色の竜。その様子に傷つけてしまったと思った娘は今日は帰るようにと促した。このままずっと会って苦しませるくらいなら会わないほうがいいと、その後で言いにくそうにしながら。
―――思えば日が照って気持ちのいい草原の聖域に不穏な風が吹いてきたのは、このときだったのかもしれない。
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