75話


 事情を聞いた不死鳥フェニックスは娘とともに怪我をしたエルフの治療を行った。魔法を使って傷を癒やしたのだ。やがてエルフの身体は全ての傷が塞がり、そのおかげで落ち着いて眠れるようになった。


 数日後に目を覚ましたエルフは不死鳥フェニックスとその娘に対して感謝の気持を伝えた。自分の傷を治してくれただけでなくこうして寝床にまで寝かせてくれたこと、看病をしてくれたことに対して。

 不死鳥フェニックスは苦笑いして言った、傷を癒やしたのは自分だが看病をしたのは娘だと。

 それでもエルフは頭を下げた。それでもありがたかったと。


 しばらくは身体を動かすことができないということでエルフはこの聖域にしばらく厄介になることになった。その側にはつきっきりで娘が補助として付き添い、二人は支えあって時を過ごした。





 やがて娘とエルフは二人でいるうちに、互いのことを意識し始めた。娘はエルフと一緒にいると赤くなるし、エルフはエルフで娘が体に障ることを避けるようになる。



 恋に落ちるのはもはや時間の問題だった。



 長きに渡る両片思いを経てようやく娘とエルフは恋仲になった。互いに告白をして両思いだとわかると、愛を確かめるように口づけをかわした。

 不死鳥フェニックスは二人を祝福し、ちょうど訪れていた者たちも祝いの歌を合唱した。草原の聖域に花畑が生まれ、花びらが空に舞った。

 幸せな空間だった。そんな時間がいつまでも続くと思っていた。











 ―――それがこの先の悲劇につながるなどと、誰も夢にも思わず。

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