74話

 ゴクリと喉を鳴らしたのは誰だったか。茶器のカチャカチャと鳴らす音だけが謁見の間に響いていく。

 そんななかで始まった国王の話は、リフェイルにとって実に衝撃的なものだった。






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 舞台は昔々、世界にまだ国が数えるほどしかなかった古の時代に遡る。

 その時代は人もエルフもドワーフも獣人もともに助け合い、生活を営みながら穏やかに日々を過ごしていたそうだ。また、今では見るのも幸運な幻獣族が地上とそれぞれの種族の前に姿を見せて生活していたという。


 そんな世界の片すみのとある広い草原で、精霊神・不死鳥フェニックスは穏やかに暮らしていた。その場所を聖域に変えて娘と一緒に。

 草原はいつも青々とした草が広がっていて、気候が変化することもなく温かで過ごしやすい場所だった。不死鳥フェニックスはその草原の中心に大きな木を生やしてできた虚にすみかを作った。そうして生まれてきた娘とともに日々を過ごしていた。


 精霊神・不死鳥フェニックスの聖域にはたくさんの者たちが訪れた。同じ"十柱の神"たちはもちろんのことたくさんの幻獣族たち、人間・エルフ・ドワーフ・獣人たち。

 ときおり安寧を求めたモンスターたちも来ることがあった。どういうわけかこの不死鳥フェニックスの聖域では凶暴なモンスターたちでさえも穏やかに暮らすことができたからだ。

 だから、いつも聖域は賑やかだった。


 なかでも幻獣族のなかで最強だという伝説種・ドラゴンであり、全ての幻獣族を束ねる竜王バハムートとは昔からの知己だった。それこそお互いの子どもたちを番にしようという話が酒の席で何度も出るくらいには仲が良好だったそうだ。

 もちろんフェニックスの娘も竜王の子どもたちも仲がよく、聖域では楽しく遊んでいたらしい。








 しかしそんなある日のこと。

 この日は珍しいことにフェニックスを訪ねてくる者が少なく、穏やかだが落ち着いた静けさが聖域を包み込んでいた。

 いつもは賑やかな場所も人が少ないと少しさびしくなるもので、フェニックスの娘は住処を飛び出して聖域を散歩していた。親のフェニックスはというとちょうど別の場所へと用事で出かけていたという。


 ・・・そうして散歩していた娘だったが、聖域の境界線まで歩いてきたときにそれは見つかった。


 なんとその境界線の内側に怪我をしたエルフが倒れていたのだ。

 娘は血相を変えて怪我をしたエルフのもとに駆け寄った。声をかけて意識がないのがわかるとどうにかその身体を背負い、おぼつかなくとも焦ったように住処へと帰っていく。





 数時間後、聖域に帰ってきた不死鳥フェニックスが見たのは寝床に寝かされたエルフと親に泣きついてきた娘だった。

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