五章 紐解かれる物語

73話

 今後の状態を決める会議は実に昨日の謁見の時よりも白熱した。今のグラスウォール王国の情勢を聞き出し、聞いてきた噂とすり合わせ、そのなかから抜き取るべき重要な情報ものをさらに抜き出していく。それを書記になったエレミアが紙に事細かく書き出してまとめていった。気になったところは別の紙に書きながらである。

 主に話し合いは国王とディック・グレイ・近衛騎士団長らが行い、そこに微力ながらリフェイルが質問したりなどして会議は着々と進んでいったのだった。




 そうしてようやく話し合いが一段落落ち着いた頃。

 不意に少しばかりソワソワしたリフェイルが手を挙げた。

「……あの、一つ気になっていることがあるのですがいいですか?」

 と。

 その頃になると近衛騎士団長は話し合いでまとめられた紙の束を受け取り、宰相のところへと向かうために謁見の間を出ていっていた。ディックやグレイはずっと続いた話し合いのおかげで疲れたせいか、エレミアや侍女たちが用意した飲み物を飲んでいる。多少は疲労も癒えたようで、少しだけ別の場所でなにかを話し合っていた。エレミアの方も侍女たちが用意した飲み物を飲んで疲れを癒やしている。

 国王も玉座に座って一息ついたところでリフェイルの質問が飛んできたのだ。


「何かなリフェイル殿。気になっていることがあるというのは」

 国王が頷いて応じると、リフェイルは少しだけ言葉を渋ったあと。

 意を決したように言い切ったのである。




「ええと、そもそもグラスウォール王国にて王族を殺した犯人は、なぜそうする必要があったのでしょうか。聞けばそれまでの王族がなにか人道に反するような政策? をしたということではなさそうな気配でしたし、なにか恨まれるようなことがあったのかな……と、思いまして」


「あ、あとですね? 自分の不勉強で申し訳ないのですが……グラスウォール王国の王族の方々というのはなにか特別な方々なのでしょうか? 精霊神・不死鳥フェニックスの話はよく聞くのですが、それとなにか関係があるのでしょうか……」





 その言葉は意外にも大きな声だったようで、休憩していたエレミアたちは静かに耳を傾ける。

 ティーカップがソーサーに置かれる音や茶器ティーポットを動かす音だけが聞こえるなか、国王は右手を口元に添えて答えた。

「ふむ……なかなかいい質問だ。王族を殺す理由、そもそもグラスウォール王家とはなにか、精霊神との関係とは……確かに気になることだろう」


「あぁええと、僕が無知だったってだけなので! 捨て子でしたしあんまり勉強はしておらず……無礼であれば謝罪しますっ」

 あんまりにも神妙に考え込んでいる様子に慌ててリフェイルが頭を下げる。

 それを近くに来たエレミアが、

「いいえリフェイル様。無知は恥ではないのです。それに今はあなた様もエンデリア国王陛下とは対等に近い存在、ですからむやみに頭を下げてはなりません。それを見た相手にこの者は自分より下だと侮られることになるのですよ」

 穏やかに王族としての心構えを諭した。

 言い方はあくまでもこちらが受け入れやすいように、それでいて導くような言葉の使い方なので、

「あ、はい! ええと……ありがとうございます」

 自然とリフェイルは背筋がピンと伸びたような感覚になる。まだまだ気弱な部分は見受けられるが、それでも少しは胸をはれるような堂々とした佇まいに近づいているのがわかった。




「エレミア殿の言うとおり、知らないのならば知識として取り込み己の力にすればいいだけのこと。知らないことを知らないと認識するのは、決して恥ずべきことではない」

 国王も笑ってそういったあと口元に添えた右手を肘掛けに置き直し、

「グラスウォール王国については我から話をしよう。我らエンデリア王族は最初にグラスウォール王国について学習を始めるのだよ」

 真剣な表情になって言い放ったのだった。

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