77話
あの薄灰色の竜ガ来なくなってから幾ばくかの月日が流れ、またもとの穏やかな日常に戻るかと思われた頃。
突如として忌まわしき厄災が草原の聖域を襲った。
まず最初に陽が陰ることが多くなった。青々としていた草原は少しずつ輝きを失っていき、あの海にいるような草葉の景色はその色を忘れていった。
草原から輝きが消えれば次はその土壌が痩せて草葉が育たなくなった。枯れ木になるところが多くなり、土も乾いて砂とかしていった。
冷えるような寒い風が吹くようになった。聖域にいた風の精霊たちが逃げ出してしまうほどの凍えたものだった。
怪しい炎を見かけるようになった。それは紫色をしていて聖域をぐるりと囲んでいる結界の外からゆらめき、その数をどんどんと増やしていった。
小さな異変が次々と増えてきてようやくおかしいと、娘も怪我が治ってきたエルフも不死鳥フェニックスも思い始めたその日。
遠く離れた場所において禁忌の大門が開け放たれた。異界へと続く忌まわしき扉を役目としている大門が。
そしてその扉から――――この世界にはいない異形のモノが次々と溢れ出して来たのだ。
異常事態を知った精霊神および幻獣王、あるいは精霊神を含む"十柱の神"がその
近くには鱗を黒く染めて変わり果てた姿をした一匹の竜の姿があった。
・・・何を隠そうこの竜こそがあの日娘に思いを告げた薄灰色の竜であり―――のちの幻獣族において、いいやこの世界において厄災を呼ぶ竜、あるいは
あまりにも大きな変容となった姿に、親の竜王バハムートはもちろん"十柱の神"たちも唖然として見ていた。不死鳥フェニックスも同じように、けれども悲しみの表情をして黒き竜を見ていた。
動きがあったのはその数分後のこと。黒き竜は血走った目を一同に向けると、つんざくような大きい鳴き声でこちらをひるませてきた。
それはあまりにも恐ろしくて思わず膝つきそうなほど。怯む、ということはないが一歩後ずさってしまうような、そんな圧力で。
『あの竜は危険すぎる』――そう思ったときにはすでに遅かった。
黒竜は鳴き声を上げたあと、首と顔をぐっと後ろに弓なりに引いてから飛び出すように前へと伸ばした。そうして牙の並んだ口を大きくあければ―――青い炎がぞくぞくと飛び出し大門のある場所全体を焼き尽くしたのだ。
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