70話

 多少面食らうもにこやかに微笑みながら、

「どうしましたかにゃ?」

 とグレイは返事を返す。考え事をしていたとはいえ少しばかり気が緩んでいたようだ。反省の二文字を思い浮かべながらリフェイルの言葉を待つ。

 そうすれば言いよどむような表情をしたあと、

「……グレイさんは、妹――まだ俺の中ではあんまりしっくりきてはいないけど、レイラさんのことを知っていらしてるんですよね」

 思い切ったようにリフェイルは言葉を続けた。

「まぁ……そうですにゃね。王子殿下がおっしゃったとは思いますが、彼女とは仕事の関係でお会いしましたにゃよ」

 グレイは頷きながら次の言葉を促す。どういうことを聞きたいのかを向こうが話しやすいように。


 すると。


 リフェイルはまた口を噤んだあとぐっと顔を突き出して近づき、放出するように次のことを口走った。

「よければレイラさんのことを教えてもらえませんかっ!? 第一印象でもいいんです、少しでも妹、のことを知っておきたくってですね………!?」


 その様子があまりにも切羽詰まったようなものだったので、グレイは若干後ずさりになりながらも答える。

「え、ええええと………彼女のことを知りたいと、そう言いましたかにゃ?」

「っはい! よければ、おねがいしますっ!!!」

 食い気味に頷くリフェイル。


 その勢いにのまれてしまって断ろうにも断れない状況へと嵌ったのに気づくと、グレイは少しだけため息をついたのちにベッドに座り直した。そうしてリフェイルの方に顔を向けると、

「………話をする分にはいいですにゃよ。ただ長話になるやもしれませんにゃ、リフェイル殿も椅子に座るといいにゃ」

 と進言するのだった。





「―――それで? 何から聞きますかにゃ?」

 内心では面倒くさそうにしつつ、グレイは向こうから質問をしやすいように話を進めていく。・・・決して説明するのが嫌だからではなく効率よく話をするためというのがグレイの性格だというのはなんとなく察していただきたい。

 そうすればベッドの近くにある椅子をグレイのいる方に持ってきて座ったリフェイルが、ほんの少し緊張しながら聞いてきた。

「あ、えと、はい。聞きたいのはさっきも言いましたけど初見の印象ですかね? 初めて会ったときの様子とか雰囲気とか、あとどういった経緯で―――いやそれはさっき聞いたからいいのか。とりあえずそんな感じでっ」


「第一印象ですか、にゃねぇ…………ふむ」

 初対面時のことを聞かれてグレイは少しだけ悩む。というのも・・・ばっちり覚えているのだ、レイラに対して刺々しい言い方で自己紹介するというその時点ですでに少しだけやらかしている記憶ことを。初対面というのにも関わらず守るべき客人である彼女に対して偏見の目を見ていたことを。

 もちろん覚えている分にはいいのだ。家族や知っている相手に失敗談として話をするのもまだ許容範囲内である。

 しかしだ、それを彼女の家族にそのまま言ってしまっていいのかどうか――それが今のグレイの問題だ。


 ぐるぐると自問自答しながら悩んでいると、リフェイルが申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。

「あ、ええと………その、答えにくかったらそれでもいいです。言いたくないことを聞くのはあんまり良くないと自分でもそう思うので……配慮が足りずにすみません、別の質問にしますね」


 それがあまりにもシュンとした表情なので、

「い、いえいえいえいえ答えますにゃ答えますにゃ! その、今考えていたのは決して答えたくないことだったからと言うわけではなく………っ!」

 慌てたグレイは謝ったのちに一つだけ咳をすると。





「……実は、ですにゃね? 私と彼女の初の対面はそれはもう酷いものだったのですにゃよ。あまりにも酷かったので伝えていいのかどうか悩んでいたのですにゃ」

 黒色の尻尾をしおらせながら観念したようにポツポツと語り始めた。

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