67話
国王は言う。
「ディルバートの話ではこのエンデリアに向かう途中、敵の策によってレイラ様が攫われたとのことだったが、それは相違ないな?」
と。
それに答えたのはやはりディックで。
「間違ってはおりません。俺とグレイ殿で警護しながらこの国に向かう途中、道中の宿場において何者かに攫われたことを確認しています。痕跡は少なく判断材料がなかなか見つかりませんでしたが―――犯人は俺もグレイ殿も知る人物で間違いないかと」
先程にも説明した詳細をディックはもう一度言い直した。隣では無言でグレイが頷く姿が見えている。
「ふむ……」
国王が頷きさらなる質問をかけようとしたのだが。
「失礼を承知で言わせていただきます。いくら兄とはいえ守っていた重要人物を容易く攫われるような阿呆なことを仕出かすとは思えないんですよねー。里では頂点を争うほどの強者だし、仕事においては常に失敗の二文字も見せない完璧ぶりだったものですからなおさらなんですよー」
その前にジェシカが首をかしげながら堂々と言い放った。グレイの援護をしつつも毒をはきながら。
そんな物言いにエレミアが嗜めるものの、本人は何処吹く風だ。というよりかはあんまり気にしていないといったほうがいいのかもしれない。
で。それを聞いたグレイがジェシカの方を目だけで睨みつけ、なんとも言えない表情になった。珍しいものを見たなと思いながらもディックは説明を続ける。
「使われたのは
その言葉が終わったのと同時にグレイが際限なく殺気をぶっ放した。まるで地面が大きく揺れているかのような感覚が謁見の間にいる全ての人物を襲う。
国王に変化はなく近衛騎士団長は冷や汗をかくものの表情は変わらない。司祭は少しばかり恐怖の色を見せているが、こちらもそこまで変化はないと見える。
ディックも表情に変化は少しも見られない。もちろんスカイも言わずもがなだ。ジェシカは少しだけ気まずそうに、エレミアは怖がっているものの歯を食いしばって耐えているのがわかった。
しかし一番もろに変化を見せたのは殺気になれていないリフェイルだった。
彼はアルステッドにおいて捨て子同然で過ごしてきた。しかし殺気に当てられるようなこと、この場合は修羅場に遭遇したということだろうがそういったことに関しては少しも出会ったことがないのだろう。ガチガチと歯を鳴らし、身体を震わせてグレイの方を見ていた。
ただ、震えてはいても座り込むようなことはしないところを見るとほんの少しは耐性のようなものがついているのかもしれない。あるいは意地か勇気のようなものか。
どちらにせよこの場に逃げ出すようなことをする者はいなかったようだった。
しばらく殺気を遠慮なく飛ばしていたグレイだったが・・・少しは心の方も落ち着いたらしい。徐々に殺気を抑えてしまい込み、
「………失礼、あまりにもイライラしたもので。あとでリフェイル殿にはお詫びのものをお渡しいたしますにゃ」
数秒後には何事もなかったようにニッコリと笑みを浮かべたのである。
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