66話
思わずといった表情でグレイがディックを見れば、彼は一瞬だけグレイと目を交えたのちに。
「グレイ殿が持っているのは隣国・グラスウォール王国の王家に伝わる書物です。そしてこの本はレイラの生家だったストックの村にありました。鎖が本を守っていたのは敵にこの本を奪われぬように―――いいえ、正統な血を持つ者しか触れぬように封印したのだと思われます」
国王に視線を戻してさらに告げた。この本の正体と鎖の意味とともに。
腑に落ちたように納得顔になるグレイ、項垂れたままのリフェイル、無言で続きを催促する国王と静かに傾聴する二人のエルフの忠臣。ジェシカやエレミアが静かに見守るなか、それぞれがそれぞれの反応をしているのをよそにディックは言葉を続ける。
「結界魔法と呼ばれるものでこの本を封印したのはレイラの父であり"
「……故にリフェイル殿が壊せたのはその条件が満たされていたからだと。お前はそう言いたいのか?」
国王がさらに問えば、ディックは無言で頷いた。
再度静まり返る空気のなか、口火を切ったのはディックだった。
彼は反論がないことを知るとリフェイルの方に向き直って一言問いかける。
「これで謎は、貴方の疑問は解けただろうか」
と。
数秒ほど間が空いたあと、リフェイルはようやく項垂れていた頭を上げて答えた。
「…………先程の失礼な態度をお詫びいたします、ディルバート殿下。まだ全てが合意できてはいないですが、それでも貴方様のお言葉が決して嘘ではないことは理解いたしました。……謝罪を、受け入れていただけるでしょうか?」
その目は先程とは違って疑いの色はなく、こちらを信頼するいい目をしていた。
✴ ✴ ✴
最初の頃の和やかな雰囲気が少しだけ戻ってきた。ギスギスした空気は消え去ったおかげで全員が安堵の息をいれることができたと気が抜けていく。リフェイルの謝罪に対してディックが許したとき、居心地が悪そうだった女性陣もほっと安心のため息をついた。
そうしてちょうどよく緊張の糸が緩んだ頃。
「リフェイル様と我が息子の和解ができたようで何よりだ。では………そろそろリフェイル様の妹君・レイラ様について話をしようではないか」
また国王の一言でこの場が引き締められたのであった。
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