13話

 

 内容が何一つわからない。

 


 理解できないといった顔をするレイラに対して、グレンは笑みを浮かべながら言う。

「とはいえ褒美といっても一つだけだが。なにかあるのならいうがいい、さっきも言ったように機嫌がいいから一つ限定でなんでも叶えてやろう」

 と。


 提案されたそれはある意味レイラにとっても誰にとっても魅惑的なものだった。一つだけなんでも願いを叶えてもらえる、それがなんであれグレンは絶対に了承するといったのだから。


 ただ、確実に裏はあるだろう。

 多少なら言葉の裏に匂わせるような含みがあるものだ。そうでなければ叶える側に利がなく、叶えてもらう側にしか得がない。権力者、例えば商人や契約を持ちかけるひとならばお互いに損得のある契約を結ぼうとするだろう。

 けれどもグレンが放ったその言葉に嘘は少しもない。どころか優越感のような余裕のような気配を感じさせられる。不安はあるがここは賭けに乗るべきなのだろうか。


 決意を胸に宿し、急いで質問内容を考える。だが考えれば考えるほど聞きたいことや確認したいことがいっぱいになり頭がぐるぐるとまわって、なかなかこれといった内容にならない。


 それでもようやくまとまった考えを緊張した心持ちで言葉にする。

「………どうしてあたしが狙われるのか、その理由を教えてください」

 と。

 さっきのグレンの言葉を思い出しながら。




 彼はついさっきこう言っていた。

 ―――『ワタシは貴女をずっと待ち焦がれていたのだよ。美しくも醜く、穢らわしい貴女をずっと。』と。

 言葉通りの意味なら、随分正々堂々とした殺害予告だ。少なくともこちらを殺したいほどの殺意がその言葉のなかにあることを、オブラートに包んだりもせずに匂わせている時点でこの男は狂っているといっても過言ではない。もちろんざっくばらんにそのままの意味でレイラに伝えていることは確定済みだ。


 しかし、もしも他に意味がその言葉のなかに含まれているのだとすれば。それが彼の本当の根拠だとすれば。

 ―――それは一体何なのか?


 知ることによる後悔は少なからずもある。今よりもっと傷つくこともあるかもしれない。

 けれども無知でいるよりかは、なんとなくだが心が軽くなるような気がしたのだ。






 ―――語られる事実が彼女を絶望に落とすことなど知りもしないで。

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