12話
身体にまたゾワゾワと悪寒が走った。それから初めてこの男に対し、少しの殺意とそれを飲み込むくらいの恐怖がむくむくと湧いてくる。
最初こそ言われた言葉の意味が少しもわからずにいた。実感があまりにもなかったのと、それほどのものが自分にあるのかどうかすら疑問があったから。
そもそも会ったことなど一度もないほぼ初対面の相手が開口一番にこちらに向かって殺害宣告を出すなど、今までのレイラなら唖然としていただろう。というかさっきまでそう感じていた。
だが今は違う。
目の前の男は言った。
そのためだけに自分をじわじわと壊しながら殺すのだと。
―――そんなもの、正気の沙汰ではない。
そんなちっぽけで意味不明な事、それだけのために・・・自分の故郷を消させたのか、この目の前の男は。
吐き気を催す。悪寒が止まらない。身体の気持ち悪さが抜けてくれない。
そのせいで身の毛がよだつほどの悍ましさがいっこうに消えてくれない。こんなにも相手の言葉に、行動に身体が拒否反応をおこすとは思わなくてレイラはさらに表情を歪める。今すぐにでもこの一方的な話が終わればいいと願ってしまうほどに。
見られないように顔を俯かせ、それから床のカーペットに向けて迫り上がって来たものを外に吐き出したいと強く思った。残念ながら拘束されている今はとてもじゃないが抑えることが難しいのだけれど。
それでもどうにか失態を侵すことなく抑えた。いまだ口の中が気持ち悪いことになっており、いつまた戻すかも分からない―――けれども。
それでもこの瞬間、そしてこのあとの数十分くらいは我慢できそうだった。
混乱で顔を歪ませるレイラをみてさらに愉悦に思ったのだろう。グレンは心底心地よさそうに笑うと、
「貴女のその歪んだ表情は格別だ。楽しみだよ、さらに壊れた表情になるのが。これからどのようにして私を愉しませてくれるのか」
と急に別の話をしだした。
ねっとりと絡みつくようなグレンの言葉に気持ち悪さがまして眉を寄せるレイラ。それすらも嬉しいのかグレンは上機嫌で続ける。
「……今はかなり機嫌がいい。こんなにも満たされた気分になったのは初めてだ。であるならば、貴女にも少しくらいのご褒美がなくてはならないな?」
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