9話
ただ一言、声を聞いた。たったそれだけなのに。
足や腕や手や身体、その全てになにかでまさぐられたような得体のしれない悪寒が走っていく。ゾワゾワと思わず身震いするようなおぞましい感触は相手への言い様のない最大の恐怖か―――それともこの先に続く予兆のようなものか。
あるいは男の容姿に既視感があるからなのか。
これはあの男がここに現れてから思っていたことだった。初対面でこれまで会ったことがないはずなのに・・・どうしてかレイラはこの男を知っているような気がした。
『デジャヴ』とも言うべきだろうか、見たこともない相手にそんな感覚がある気がしてならなかった。
なぜ知っているかの理由などどこにもない。わからないがそれでもなぜか見覚えがあるような感じがするのだ。
とはいえそれでもはっきり言えることは一つ。
それは、どちらにせよいい予感などではないということ。震える身体を動く上腕で押さえ、唇を噛みながらレイラは相手を見やった。
少し離れた場所にある炎の台座は変わらず部屋のなかを照らしている。パチパチと火花が散る音は静かな部屋のなかに小さく響いた。
ただ、大きさの割りにはそこまで明るくないせいでなんとも不気味な雰囲気を醸し出していて。まるでお伽噺に出てくる魔王の住むおどろおどろしい城にいるような感覚だった。さらには台座と玉座しかないこの飾りっけのない部屋が、余計にその怖い雰囲気を増長させている。
軽く恐怖ものだった。
―――相手と話をする理由がない。
知らない相手に返事をするのはおかしい。そう思ったから無言でいると、男は少しだけクスリと笑った。それから突然笑みを消し、
「……その口は飾りか? 答えないのならその口に用はない。全て縫い付けてやろう」
と低い声で威圧してきた。
瞬間。
押し潰されそうなほどの重さがレイラにのし掛かって来た。重力など生ぬるい、なにかもっと別の重さが部屋の全てを襲ったのだ。
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