6話

「あぐっ!!?」

 重力と捻られた腕の痛み、そして床に思いっきりぶつかったせいで悲鳴が漏れる。

 床は木材かそれとも石材なのか。とにかくとても固かったのでものすごく痛い。おかげで大きな刺激に身体が悲鳴を上げた。

 容赦なく押さえつけられて身体が動かせない状況だ。右腕は曲がらない方向に捻りあげられていて痛いし、左の腕も身体の下敷きになって全く動かせないようになっている。

 身じろぎだけでも腕に激痛が襲った。どうやらこちらが動けば動くだけ、右腕が徐々に曲がらない方向へと捻りあげられているようだ。

 両足はどうにか動くらしいが、後ろにいる相手に攻撃したとて大した痛みにはならないだろう。




 いきなりの出来事で混乱していると。

 また扉の開く音がして靴音が聞こえてきた。軽いヒールが鳴らすその音は少しずつ近づいていき、ベッドの近くらしきところまで来ると大きな音を鳴らしてようやく静止する。

 誰かが来たのはレイラにも分かっていたが―――生憎と見えにくい場所に新たな人物は立っており、見るのを断念しなければならなかった。


 レイラを抑えている者にも誰か来たのかは分かったらしい。少しだけだが拘束する力が弱くなったのがわかった。その隙きを見逃さずどうにかして動こうとするが、どうやらあちらの方が一枚も二枚も上手のようで。

 押さえつける力は弱くなったがいつの間にか後ろ手に縄を拘束され、両方の腕を使えなくされていた。他のことに気を取られている間にサクッとやられたようである。

 思わず舌打ちしたくなったがグッと我慢。入ってきた者たちに耳をじっと傾けた。見えないのなら耳で聞いて誰がいるのかを探るためであった。


 すぐに聞こえてきた声の主は明らかに女性だった。次に聞こえてきた声は、そのまま聞いていれば違和感のない―――だがよくよく聞いていれば引っかかりのあるようなもので。


 そして。

「……私が入る前に行動をとったのはなぜ?」

『この者が窓から逃げようとしているように見えました。ですので拘束したのです、ご主人様』

 明らかに女性の方はレイラが聞いたことのあるものだった。レイラは仰天して声を上げそうになり、ぐっと堪えた。





 最初に話し始めたのは、おそらくだが傭兵組織ギルド支部・『流星の守り人』に所属していた黒の魔導士ウィザード―――リディアナ・アラクレイドで間違いなかった。彼女がここにいるということは、ここに連れてきたのがリディアナだということだろう。なぜここに連れてきたのか? 混乱する中で考えるが答えは見つからない。


 対してレイラを拘束したあと主人の問に答えたのは男性のようだ。ただ、男の声にしては声高でどこか単調かつ無機質ぽいような、というかまるで人間の声ではなく音として聞いているような感覚がして違和感を拭えない。一体誰なのか?



 考え事をしている間もリディアナらしき者と男の会話は続く。

 会話の内容に耳を傾けたかったが、さっきの頭痛がまたぶり返した。リディアナのことを思い出したからだろうか、意識が少しばかり飛んでいて内容がほとんど入ってこない。


 だが、

 〝玉座にて主がお待ちである〟

 〝ようやく開放される〟

 という言葉が頭に焼き付いたように離れなかった。

 そこから察するに今いるこの場所は、どうやらどこかの国の城の一室だとレイラは気づいた。だからこんなにも部屋が広いのかと一人で納得する。

 ただ、ここにいる理由は今のところ分からない。けれど会話のなかにあった〝主〟とやらがこの一連の出来事の黒幕には違いないだろう。きっとこのまま自分はその相手に会うことになりそうである。

 見えない相手に恐怖を感じるが、レイラはそれを表に出さずに大人しくその場で耐えた。今ここで暴れたり逃げる素振りをすれば・・・何が起こるか検討できない。


 じっとしていればようやく話し終わったらしい。

 というのもリディアナの『行くぞ』という言葉と同時に身体が浮遊して揺れ始めたのである。顔が地面の方に向いていることから、いつの間にか男に俵担ぎで身体を抱えられたらしい。

 歩くたびにゆらゆらするせいで気持ち悪くなってきたが、それをいえばまた面倒くさいことになる。そう考えてレイラはこの揺れとの戦いに勝つために耐え始めた。

 この移動がすぐに終わることを信じて。

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