3話

            * * * * *






 ―――傭兵組織代表ギルドマスターの部屋に襲撃があったあの日。

 凶刃に倒れ命を落としたドミニクを見て、レイラは絶望の淵の手前にまで堕落した。あまりにも酷い現実を真っ向から受け入れられず、そのせいで身体の奥底から憎悪という名の秘めた力を暴走させたのだ。

 それは結果として蒼い炎に取って代わり、部屋の中をいつまでも燃やし続けることとなる。


 しかしレイラには

 そもそも憎悪の闇に落ちる手前までいったときには意識も曖昧な状態で、その間のことはモヤがかかったように揺らいでいるのだ。だから、蒼い炎が見えたあのあと―――あそこで何が起きたのかも、自分はどうなってしまったのかも全て、記憶として覚えていない。


 ・・・けれども少し、ほんの少しだけ覚えているものがあった。

 それは悲しくて辛くてどうしようもなかったこと。

 それだけはこびりつくように覚えている。








 次に意識が明確になったのはまるまる三日経った昼だ。それまでの自分は深い昏睡状態だったと治療部屋の医師が安堵した表情で言っていたのを覚えている。

 想像以上に危険な状態だったらしい。そのあと起きてすぐに軽く診察したのも理解できた。

 結果的には昏睡状態だったのにもかかわらず身体も精神も異常はなし。しばらくは安静だが健康状態にはすぐ戻るだろうということだった。


 それから終わったあとだが、これまでのことを簡単に教えてもらえることとなった。

 最初こそ『聞いていいのだろうか?』とどこか遠慮があったものの・・・事件の関係者ということで町の警備隊から特別に許可が出たらしい。犯人のことや現場のことなどの詳細を省くのであれば大丈夫ということだった。


 そうして医師の説明をまとめたのが以下のものである。

 曰く、現場の部屋のなかはほとんど瓦礫になってしまったので新しく改装する予定であること。

 曰く、あの蒼い炎は狐獣人の巫女メディウム―――エレミアのおかげで無事に鎮火できたこと。

 曰く、事件は徹底的に調査しているが解明にはかなり時間がかかること。


 ・・・曰く、ドミニクを殺害したのはではないかということ。




 このあたりは軽くだが説明された。

 曰く、今回は特に暗殺に優れた魔法生物だったのではないかと現場を調べた者たちは報告しているそうだ。なぜなら内蔵した武器で殺害したのち、証拠が残らないようにその場で自爆する魔術が残留していたからである。

 マントやフードを暗殺者が着用していたのは自爆の魔術痕や"腕が3本"という合成痕を隠すためか、あるいはいたという認識を残さないためではないかとのこと。つまりは傭兵組織のなかに敵がいる、というものを隠すためだったのだろう。


 ただ、予想外だったのは対象のドミニクが殺気を感じて防御体制を敷いた上にこちらの攻撃を捌いて凌ぎ続けたこと。それからグレイやレイラといった思わぬ伏兵の乱入だったことだろうか。

 とはいえそれでも最終的には暗殺という目標を達成し、あとは自爆して証拠隠滅をはかるだけ―――――それで終わりのはずだった。




 しかしここで最大の誤算が生じる。それはレイラの暴走で燃え上がったあの"蒼い炎"だ。

 彼女が負の感情を爆発させあの炎を広げたことでフードで隠していたはずの素顔を剥がされ、グレイに気づかれたのだ。暗殺者の正体はを。


 焦った暗殺者は自爆して証拠隠滅と同時にレイラやグレイを葬ろうと図った。

 ―――けれどここでもまた彼にとっての2つ目の誤算が起きた。

 瀕死だったはずのドミニクが暗殺者ごとその身体で抱え込み、もろとも爆発したのだ。被害が周囲に広がらないようにと自滅の覚悟で。




 そのあとは最初に説明された通り、蒼い炎をエレミアが鎮火させて傭兵組織の冒険者たち、街の警備隊らが突入。ここで一応の解決となった。

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