第二部
序章
Second プロローグ2 転
―――分かっていた。その時が来たのを。
すでに覚悟はできている。ずっとずっと、相手からの眼にはひどく大きな憎悪を感じていたから。
こちらを心底嫌い、憎み、悪意を抱く眼。そんな得体のしれないものが相手のなかに見え隠れしていたのを、昔も今もひどく鮮明に覚えている。
そんな相手に、疑問と同時に不思議とその怨恨を受け入れてる自分もいて。それがなぜかはわからないけれど、もしかしたら。
こちらを憎む理由を、その意味を知りたくて目が離せなかったのかもしれない。
* * * * *
カツカツと少し薄暗い謁見の間に靴の音が響いた。ちょうど少女には見えない位置にある後ろの扉から近づく気配がする。
また誰かが来たのかと思い、震える身体を叱咤して落ち着かせながら身構えた。
だが。
その空元気に振る舞う行為も、新たに現れた者の気配を感じ取れるほど近づいてくるにつれて台無しになっていった。
ヒュッと呼吸が消えていく。力はとうに消えて動けないけれど、それでも今はただ狼狽えることしかできない。考えていたことが真っ白になって考えることもできない。
・・・もしも理性が、考える力が少しでも残っているのなら。
今頃相手に向かってたくさんの質問をしていただろう。
〝どうしてここにいるのか〟。その理由を知りたいから。
靴音は少女の隣を通りすぎ、段を登って男の座る玉座の近くにて止まる。静止したのに気づいて顔を上げれば―――よく知った顔が目に入った。
・・・正直にいうと今すぐにでも詰め寄りたい思いが大きくて。けれど、腑に落ちるような、どこかで納得する自分がいる。
それは同時に〝もう後戻りできない〟状態なのだと少女にはっきりと示していた。
唇に力を入れたあと、少女は紡ぐ。
「……いずれ貴方とは話をしなければならないと思っていました。顔を合わして心の内をさらけ出すような、そんな話をしなければならないと」
「……」
「でも、きっと話はできないとも思っていたのは事実です。きっと貴方は教えてくれないと、どこかで諦めてた」
「………」
「―――でも、あたしは理由が知りたい。どうしてここにいるのか、なぜそこに立つのか話をしてほしいと思うのです。………だから」
「……っ答えてください 義兄さま。どうして貴方はそこに立っているのですか?」
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