エピローグ【3】

「ダンボールだらけですね。」

僕は道中で、提出しなければならない書類の存在に気づいた。

そして、すぐにお渡しします、ととりあえず部屋にあげしてしまった。

「見苦しくてすみません。」

僕は折り畳みの机を引っ張りだし、座る位置を確保する。そして、電気ストーブを付け、部屋を温める。

最近、本格的に自炊を始めたキッチンに向かい、お菓子でもないか探した。

「ご自分でお茶作られるんですね。」

顔を上げると、出る前にしまい忘れたプラスチックのピッチャーに入った麦茶が、目に入った。

「コンビニなんかで買ってると、案外出費していたことに気づいて、出来ることはやってます。」

劇団に入っているとチケット代や衣装など、何かとお金がかかってしまう。


「あの、そのままで構いませんので、聞いてもらっても大丈夫ですか?」

僕は店の事かと思い、はい、と生返事してしまった。

「母親が、この店の系列でオーナーをしていて、進路を決める時に何となくこの道を選んでしまったんです。高校を卒業した後、すぐ本社に就職しました。そして、一年前にここの店長に配属することが決まりました。ここの前店長は、俺の教育担当だったんです。運良く後任のお話を頂き、出世もしたかったので、すぐにお返事させていただいたんです。でも引き継いでわかったんです。ここの経営状況はあまりいいとは言えない事。何もかも初めてで、おまけに知らない人ばかりに囲まれなくちゃいけなくなって、そんな時に峯田さんにお話を聞いてもらっていたんです。」

店長は、峯田さんが好きだったのか。

だから、辞めた後もちょくちょく会ったりしてるのか。何となく、背中が熱い。


「俺、ずっと橋本さんと仲、良くなりたくて…。ずっと峯田さんに相談に乗ってもらってて、この際、恥を忍んで言わせていただきます。好きになってしまったんです。男とか、そんなんじゃなくて、橋本さんが、好きです。」


参った、僕には男性を好きになる趣味など無い。

だが、僕はとりあえず、手に持っていたぬるい麦茶を冷やすために、冷蔵庫を開けた。

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麦茶、ぬるくなったから冷やした 夜久 晶 @akirayaku

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