オルカラド王国(Kingdom of Olkalad)
第4話 白昼の惨事
オルカラド王国 ルシアン帝国側国境付近“ミコルの森”―数人の男たちが必死で駆けている。
全員中年で、身なりもバラバラではあったが、その怯えきった表情は一様に青ざめている。よろけながらも止まる気配はない。まだ辺りは昼間だが太陽の光はなく、空一面を雪雲が覆っていて薄暗い。
ひとつにまとまって全力疾走する彼らの息は白く、何度も吐き出されては、冷たい風の中に消えていく。
徐々に、集団はバラつき始めた。ちょうどその頃、彼らの後方から追いかけるように不気味な足音が彼らとの距離を確実に縮めつつあった。
「ッもういい!俺が奴らの気を引き、食い止めるっ!ハッ…ハアッ…お前たちだけでもっ…ハアッ…ハッ…逃げろっ!!」
一番背が高く、恰幅の良い男が駆けながら大声を張り上げる。
彼の骨折した足は、患部から走るたびに突き上げるような強い痛みが走り、立つこともままならなくなっていた。既に走ることは諦めている。
ほかの男たちが反論しようとした時だ。先頭を駆けていた男の後頭部に、なにか当たったような音がした、瞬間—
男の頭部が吹き飛んだ。
駆けていた男たちは悲鳴をあげ、その歩みを止めてその場に立ち尽くしている。
そんな彼らの目の前で、頭部を失った体は、血を吹き出しながら崩れ落ちた。血しぶきを微かに顔に感じた者は、次は自分が同じ目に遭うかもしれないと、泣き叫びながら闇雲に命乞いをしている。
心を芯から打ち砕かれた男たちは、もう駆けることはできなかった。
まもなく、複数の規則正しい足音が大きくなり、黒い布で全身を覆った集団が現れた。顔も小さな布に覆われていて、その表情は愚か顔の一部も垣間見ることはできない。
「おっ…俺たちが何したって言うんだッ!」
「そ、そうだ…ッ!…ハァっハァ…ミゲルをっ…あ、あんな目に…ッ!」
「ハァッ…ハァッ…っあんたら、だっ誰なんだよッ!俺たちにっ…なんの恨みが…っ」
全く言葉を発しない黒い集団に、退路のない男たちはたまらず叫び出す。異様な空気の中、突如、無機質な男の声がその雰囲気を切り裂いて響いた。
「我らは」
黒い集団の最奥にいた者が動いた。その手には、きらりと小さく刃が光る。
男は前に歩み出ると、その右足を強く踏み込んだ。薄暗い空に舞い、黒づくめの男は告げる。
「キバ。王に代わり正義を実践する者だ」
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