第三話

 これまでの戦術状況。


 米国に向けて一発目の大陸間弾道ミサイルを撃ち込み、これを生活圏外の太平洋上に落下させ、核爆発を起こさせたものの、人的な被害はなし。


 度重なる大陸間弾道ミサイルを撃ち込み続ける北朝鮮だが、そのすべてが不発。弾頭には核どころか火薬すら入っていない有り様。


 米国に対して一方的な攻撃を続けていると国営放送で流し続ける北朝鮮。

 間違ってはいないが、けっして成果を出しているわけではない……。


 その続きである。


 米国内に北朝鮮に与するテロリストを送り込む。

 遠くを注視させておいて、肝心の身近に目が行かない状況をつくり出す……。


 狙うはひとつ……。

 核爆弾による主要都市の同時多発テロ行為である。

 爆発を引き起こす役が、『生き残らない』ことを前提として動けば、予測外のことにも対応できることだろう。成功率が上がる。


 日本が第二次世界大戦で行った、有人飛行機による突撃も同様である。途中で脱出したりせず、最後まで対空砲火の雨あられを掻い潜ろうとしたからこそ、『特攻』はなったのである。


 2018年現在。

 いくら電子戦が発展しようとも、最後の決め手となるのは人間である。現代で言えば、プログラムではなくプログラムを送り込む人間、ハッカーの性能が成否を左右する。

 人工知能が完全に人間を超えない限り、最終的な決定権は覆らないとみている。


 北朝鮮による『核爆弾』の『特攻』が成功したとしよう。

 兵士の精神調整は、偶然だろうが、第二次世界大戦で特攻を行った日本人に酷似しているのだから。断れば逆賊。生き残れば売国奴。死に切れば英雄。

 当然だが、米国は怒り散らすだろう。

 核を使うとは何事か、と。


 そこで北朝鮮……金正恩氏は日本を盾にすべきだった。

「敬愛すべき同志たる日本の精神を尊んだ金正恩元帥は、勇敢なる兵士を敵地に潜伏させ敵に甚大なる被害を与えることに成功した! これにより我が国の旗は間もなく米国の地に立つことであろう!!」

 とか言えばよかったのだ。


 米国としては『核を使われた』ことを議題にしたい。

 だが、同盟国である日本を切り落とす『特攻行為』について触れるわけにはいかない。この戦略は『核』と『特攻』がセットになっていることに重要性があるのだ。『核』を否定することはできる。しかし『特攻』を否定することはできない。なぜならば、戦略的にも戦術的にも手放すことはできない、日本に残された遺産だからだ。


 米国の大統領がもし前期のバラク・オバマ氏であれば、『特攻』に触れることをせず、過剰な入国制限と国内検査で、事態が落ち着くまで穏便に済ませるだろう。


 だが、ドナルド・トランプ氏ならばどうか?

 間違いなく報復行動に出る。

 日本は切り捨てる。切り捨てたあとで、必要になったらまた使えるように拾うから問題ないと考える。


 ゆえに。

 北朝鮮に対して、絶対に行ってはならない日本に次ぐ二カ国目の核投下を行うはずである。


 最初に述べた。

 北朝鮮の勝利条件は米国に核を使わせることだと。

 人類最強最悪の兵器を最初に使っておいて、反省もそこそこに必要とあればやはり使う。

 そんな国を世界の王だと他の国々は認めるだろうか?

 答えを問うまでもない。


 が、『北朝鮮が勝利した』と言えるゆえんは別にある。

 米国がふたたび核を戦争に使用したことで、情勢の安定しない発展途上国や、宗教戦争国などは口火を切ったかのように核兵器の使用を始めるだろう……。


 米国による仮初めの統治は終わり、世界は各々が核兵器を撃っては撃ち返す……第一次核戦争の可能性があったのだ。

 第一次世界核戦争へと米国を陥れたとすれば、戦果として勝っていなくとも、北朝鮮は米国に勝利したと言えるのではないだろうか。


 これが。

 北朝鮮の勝利条件は米国に核を使わせること。

 米国の敗北条件は北朝鮮に核を使わせられること。

 その理由である。


 そして……。

 もしかしたらあり得たかもしれない世界の要となったのは……。

『特攻』という戦略を独自に編みだし、いち早く取り入れた、日本という小さな小さな、島国になっていたのかもしれないのだ……。


 米国は今後もテロリズムを否定しながら、テロリズムを内包する同盟国をその身に宿しながら、世界平和を高らかに宣言し続けなければならない。忘れることなかれ……日本は平和の国だが、決して平和な国民たちではない……。

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北朝鮮民主主義人民共和国が勝利していたかもしれない消費期限切れのシナリオ 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro

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