第二部
記録その13 / おさげの少女
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ローブンでは一年が過ぎ、アースの気候は全く変わってしまいました。
日に日に日差しが強くなっては、不快感漂う長い雨期に入り、それが過ぎると今度は、木陰や室内に逃げたくなるほどの猛暑が始まりました。
ラビュラさんがかつて唱えた魔法陣のおかげで風がそよいでいて、幾分か暑さは和らいでいますが――
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「暑い、です」
「本当よ! こんなに気持ち悪い暑さは初めてだわ!」
木の上に座るラビュラさんも、熱気を飛ばそうと片手をあおいでは、両脚を投げ出しています。
……ラビュラさんの言う通り、ここの暑さは全く爽やかではないです。まるで熱が貼りついているようで気分が晴れません――空は雲一つないのに。
「今日もここの入り口に人がいるもの。この暑さじゃ、木陰で休みたい気持ちも分かるわー」
「――人がいるんですか!?」
久しぶりの来訪者じゃないですか!
「いるわよ。同じ服を着た男女が、あそこに」
と指差すラビュラさん。
下にいた私は、ラビュラさんと同じ目線に立つべく、木の上に上がって適当な枝に腰掛けます。
……見た目からすると、私と同じくらいの年をしていそうです。入り口前で、それぞれ地べたに座って涼んでいる様子。
「特に、あのおさげの女の子は最近よく見るの。――ちょっと前かしら。突然降った雨から逃げるようにここへやって来て、それから。この場所が気に入っちゃったみたい」
「あの方達が中に入ったことは?」
「ないわ。にしても初めて知ったわよ。あの子に男の子の知り合いがいたなんて。あの子可愛いからモテそうだなって思ってたんだけど――」
「戦士であることに可愛いは不要ですよ」
「可愛いは必要よ! それだけで暑さが忘れられるんだから!」
……いやいや、何をおっしゃっているのやら。
「ラビュラさん分かっているんですか? 私達は新しい戦士を見つける為に来ているんですよ? 可愛さや癒しを求めに来ているんじゃないんです」
「分かってるわよー――あーあ、女の子行っちゃったー」
この人絶対分かってないですね。
暑さで頭がおかしくなっているのでしょう。喝を入れなくては!
「いい加減にして下さい! こんなことをしている間も、カゲルは動いているんです! 一刻も早く戦士を見つけないと――!」
「かっかしてもしょうがないわよ。待つしかないの、ここで」
「そう言ってもう一年経つじゃないですか! 私は待てません!」
「だからって無理矢理連れて来た時に逃げられちゃったじゃない! それにあなた、森の外に出ているなら聞いてるでしょう? この森に関した噂を」
「それは……」
確かに、図書館の道中で交番のお兄さんにも、図書館の受付の方にも、「森に近付いた人には災難が降りかかるから気を付けるように!」なんて言われましたけど。
「だから今は動く時じゃないの」
待つのよ。と呪文のように呟き始めたラビュラさんは、私と目線を合わせようとしません――これは、話しかけても無反応を貫く姿勢ですね。
となれば。この場を離れましょう。
あの人といるより、借りた本を家で読んでいたほうがよっぽど有意義です。
私は、この世界の人達と交流を図れるようにあらゆる分野を学んで教養を深めているんです。そのおかげで、意思疎通もすんなりと出来るようになりました。
それに対してあの人はどうでしょう。この森から一歩も出ようとせずに、隙があれば魔生物と戯れて、挙句の果てには木の上で女の子観察ですよ? ちゃんと
「ただ今帰りました」
「おう、おかえり! 戦士候補、見つけたか?」
「全くです」
「……もしやまた意見ぶつけたな?」
「どうしてそのような事を聞くのですか?」
「思いっきり顔に出てるぞ? 話分かってもらえなくてもう、プンプン! ってな!」
かっかっか! とリツキさんは笑いますが。
「もう、笑い事じゃないですよ。あの人、まるで分かってないんです。戦士を見つけることの重要性が」
「そうか? 俺はそう思わないな」
「どうしてですか? あの人、森にやって来るだけで何にもしてませんよ?」
「いやいや、毎日来てるってだけでもすげえと思うぞ? 組織のあらゆる事で世界を飛び回る傍ら、カゲルに関する情報集めも欠かさねえ。アースの事もあの人なりにいろいろ調べてる。お前と同じくらいあの人は考えているよ、世界の事」
「そうなんでしょうか」
そうそう! とリツキさんは深く頷きました。
「まあ、分からなくはないけどな! あの人ひょうひょうとしてるっつーか、あっけらかんとしてるっつーか」
「あら! それは誰のお話?」
「おっと戻ってたんですね!」
「ええ今さっき――それよりアスカちゃん今とんでもないことが起こったの!」
「……はい?」
イセカイサイクロン・リコード ~異世界少女のアース開拓奮闘記!~ かーや・ぱっせ @passeven7
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