怪談狩り 禍々しい家
キッチンの修繕
キッチンの修繕
これも原状回復工事を請け負うGさんの話である。
ある管理会社から、某マンションのシステムキッチンの収納棚の修繕依頼を受けた。
普通、床や壁の張り替えなども依頼されるのだが、キッチンの収納棚の修繕だけ、という依頼は珍しい。
現場に行き、預かったカギを使って、玄関のドアを開けた。
と、一瞬、部屋を間違えたかと思っていったん玄関を閉め、部屋番号を確認した。
ここに間違いない。
開けた瞬間、生活臭があったのだ。今、ここは人が住んでいる、という雰囲気が。
再び開けて、中を覗くが、真っ暗な部屋があるだけだ。
(なんだかここ、入りたくねえな)
そう思いながら、中に入る。
キッチンに入り、電気を点けた。
一枚の大きな磨りガラスが目に入った。キッチンと奥のリビングを仕切っているもので、リビングは当然、真っ暗である。
さっそく作業を始める。
キッチンの下にある収納棚を開けると、その中に頭を突っ込んだ。
すると、カサカサという物音がする。人がいるかのようだ。
しかしGさんは、それを確認できる状態ではない。
カサカサという音は止まない。
(怖い、怖い、早く仕事を終えて、帰りたい)
そればかりを考えて、作業をする。その間、人が歩く気配や、誰かが部屋の壁を擦る音がする。そして、もうすぐ作業が終わる、という頃になると、それらの気配もピタリと止んだ。
作業が終わった。
収納棚から顔を出し、棚の扉を閉めた。
そのとき、なんとはなしに、キッチンを仕切っている磨りガラスに目が行った。
そのガラスの向こうに、生首があった。
ぽんと、床に置いてあるのだ。
青白い顔で、口をぽっかり開けて、こっちを見ている。
磨りガラスの向こうにあるので、はっきりとはわからないが、男であることはわかった。
腰を抜かした。
その途端に、ギィィィー、という何かの断末魔を思わせる声が、部屋中に響いた。
「わああっ」
Gさんは、悲鳴をあげて、後のことは覚えていない。気がつくと、家にいた。
次の日、管理会社に電話をした。そして昨日あったことを話してあの部屋でなにがあったのかを聞いたが「電話では答えられない」と返答があった。
それでGさんは、管理会社に足を運んで、直接問いただしたのだ。
その部屋に住んでいたのは、初老の男性だったという。
ある日、隣の住人から、ドアの下から血が流れてきているという通報があった。
管理人が行ってみると、確かに血が流れ出してきて、共同廊下を汚している。
呼び鈴を鳴らすが、返答がない。大声で名前を呼び、ドアを叩いても、やはり返事がない。
合いカギで、玄関を開けてみた。
すると、玄関近くで、初老の男は死んでいたという。
喉をかき切っての自殺。
その切り傷は、声帯までも切断していた。
それを隠そうとして、家主はリフォームをした。
それで、Gさんに、不自然な発注が来たのだという。
(終)
* * *
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他のエピソードを読む: https://kakuyomu.jp/special/entry/kaidan2018
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