怪談狩り 市朗百物語 赤い顔

美女の脚

美女の脚


 Tさんが高校二年のとき、担任のK先生が、ある日を境にゲッソリと瘦せてきて、休むことが多くなった時期があったという。


「K先生、ノイローゼやて」


「もう辞めるいう話や」という噂も、クラスで飛び交っていた。


 しかし、ある日を境に今度は元気になって、結局卒業までお世話になった。

 何年か後の同窓会に来られたK先生に「あのとき、ご病気されてたんですか?」と聞いたところ、こんな話を聞かされた。


 学校へ通勤する電車に乗るため、いつもの駅の階段を上がっていた。すると、その前を行くミニスカートの女性の後ろ姿が目に入った。

 K先生も男である。その美しい脚に目がいく。

 ホームに上がって電車を待つが、やはりその何メートルか先で電車を待っている美脚の女性が気になって、ちらちらと目がいってしまう。やがて電車が来る。

 その途端、女性はホームから飛び降り、バラバラになった。

 阿鼻叫喚。

 K先生も見たらあかん、と思いつつも、つい好奇心に負けて下を覗いてしまった。

 思わず嘔吐した。切断された美脚が目の前にあったのだ。


 その夜のこと。

 まだ脳裏に焼きついている駅での光景を忘れようと、お酒を飲んで寝床に入ったら、ドォーンとなにかが暗い部屋の壁にあたった。そのとき、厭なイメージがきた。

 あの美脚がくるくる飛んできて、壁に当たったのだ。

 もう怖くて布団を頭までかぶってぶるぶる震えた。気がついたらもう朝で、部屋を見ると別になんの異常もなかった。


 ところが、その音が毎夜のように聞こえるようになった。

 空耳ではない。音の後、若干の振動が部屋に伝わる。音のしたあたりを見るが、やはりなにもない。それが続く。


 それから一カ月の間に、K先生は自殺の現場に三度遭遇したというのだ。

 一度は同じ駅のホーム。このときも若い女性。

 その夜からは、ドォーンといういつもの音の後、バァーンと別の音がした。それがベランダの窓ガラスに当たる。


 その一週間後、マンション屋上からの飛び降りがあった。

 K先生の行く手数メートル先に、サラリーマンらしき男が落下してきた。ドスン、と鈍い音がした。

 その夜、音が増えた。

 ドォーン、バァーン、ドスン。


 それから十日ほどして、目の前でバイク事故がおきた。

 若い男の腕が飛んできて、ザッとK先生の足もとに着地した。

 その夜、ドォーン、バァーン、ドスン。しばらくしてザッとアスファルトを擦る音がして、K先生のベッドの脚になにかがあたったような振動が起こった。


「もうあかん……」


 ゲッソリ瘦せたのは、その頃のことだったという。

 あまりの急激な瘦せように、ある人が心配してくれ、訳を話すと祈禱師を紹介してもらった。その祈禱を受けたら、その夜から音は一切しなくなったという。


(終)


* * *


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他のエピソードを読む: https://kakuyomu.jp/special/entry/kaidan2018

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