「怪談狩り」シリーズ

中山市朗/KADOKAWA文芸

怪談狩り 市朗百物語

黒いバイク

黒いバイク

 Sさんが岡山県に住む義理の母から聞いた話だ。


 彼女には弟がいた。Uさんという。勉強がよくできる人らしく、地元のO大学を現役で合格し、学校に通いながら家庭教師のアルバイトをしていた。三年経つと、その教え子がUさんと同じ大学に入ることになった。彼の祝賀会が開かれ、Uさんも招待された。Uさんに感謝した教え子の両親から、なんと中古の黒いバイクをプレゼントしてもらった。四百CCの立派なバイクで、彼の愛車となった。

 翌年の二月一日、Uさんの誕生パーティが開かれた。大学の仲間や地元の友人たちがUさんの家に集まって楽しい時間を過ごした。

 気がつくと、主役のUさんの姿がない。


「あいつ、どこ行った?」

「トイレにでも行きよったんじゃない?」

「いや、おらんかった」

「バイクがないみたい。コンビニにでも行ったのか」

「まあ、そのうち帰って来るやろ」


 しかし、Uさんは帰ってこなかったのだ。


 二、三日してもUさんは行方知れずのまま。Uさんの親も警察に捜索願を届け出た。


 それから十日後にUさんは見つかった。それが奇妙な見つかり方だったのだ。

 Uさんの家から数キロ離れたところに丘がある。その丘の上に黒いバイクが放置されているのを近所の小学生が発見した。丘の裏側には、氷の張った池がある。その池の真ん中に、胸から上が氷から出た状態で、合掌をしているUさんがいたという。

 通報を受けた警察や近所の人がその池に駆けつけ、Uさんを氷の中から引き上げた。全身凍結状態で死んでいた。彼の下半身はあぐらをかいた状態で、まるでそれは修行僧を思わせる姿だったという。


 葬式が終わって、荼毘に付された後、彼の愛車であった黒いバイクは、書類から購入した店舗がわかったので、店に引き取ってもらうことにした。

 Uさんの家にやってきた店員は、バイクを見て「えっ、また戻ってきた」と真っ青な顔で驚く。


「三度目ですわ、これで」


 過去二度、バイクの持ち主は交通事故で亡くなったが、このバイクだけは無傷で帰ってきた。これが三度目なのだという。気味悪がった店員は、引き取らずに帰ってしまった。仕方なく、バイクは家の納屋の中にしまい込んだ。

 Uさんの実家は昔の農家の造りの家屋である。トイレが外にあるので、夜中トイレに行くときは納屋の前を通ることになる。月明かりに照らされたバイクは、ハンドル部分が光って見える。Uさんの姉には、なんだか不気味に見えたそうだ。

 姉はやがて結婚し、家を出た。



 何年かして姉が実家に戻ると、納屋のバイクがなくなっていることに気がついた。


「お母ちゃん、あのバイク、どうしたの?」


 すると、母は下を向いて泣き出した。


「あのバイクは持って行ったらあかんと言うたんじゃ」


「えっ、誰かにあげたの?」


「あれにはいわくがある、と言うて聞かせたんじゃけど、どうしても欲しいというて無理やり……」


 母の遠い親戚にあたる若い男性が、納屋のバイクに一目惚れしたという。


「お母ちゃん、その人は、無事なの?」


 彼は三日もしないうちに交通事故で亡くなった。

 バイクは無傷だったそうだ。そのバイクは、いまどこにあるのかわからない。


(終)


* * *


中山市朗「怪談狩り」シリーズ全5作、好評発売中

他のエピソードを読む: https://kakuyomu.jp/special/entry/kaidan2018

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