四コマ落語

@kanjjsan

第1話「ご利益あり?」

「失礼ですが、この寺のご住職でいらっしゃいますか?ああ、よかった、てっきり賽銭泥棒かと、間違えて怒鳴りつけるところでした。まあ、まあ、そんなに怖い顔をして睨み付けなくとも、冗談ですから、じょ・う・だ・ん。

わたしですか?はい、全国黎黎会で御守・お札プロデュサーとして働いている者で決してご住職ほど怪しいものではございません。現在、全国の『アルプスの少女』的なお寺を廻りいろいろとご提案を差し上げている次第です。外見では大分荒廃としていたものですから、てっきり廃寺(ハイジ)かと思ったら急にご住職が現れてびっくりしました。

ところで、ここのご本尊は?えっ、「薬師如来」。ちょうどよろしかった。昨今のお寺事情・経営はだいぶ悪化しておりますのはご周知のとおり。まさか、ご本尊をオークションにかけて売り払っちゃったかと。まあ、仏様に胡坐をかいたような日頃の状況では、高齢化社会問題も含め檀家さまもどんどん離れていくばかりです。従来の『待ちの姿勢』ではもうお寺の運営には難しいものがあります。

もっと世間に積極的に働きかけ、宣伝していく必要があります。

かたや、ベンツを乗っているようなご住職もいます。その差は何か?言うまでもなく、坊主頭を使うか使わないかの差でしょうね。キーワードはアイデアです。

まあ、詳細は後にして、今日はご住職にといいますか、こんな人けのないお寺様をどうにか活性化して差し上げようといいお話しを持ってまいった次第です。

早速ですが、これが全国のお薬師さんをご本尊とするお寺様向けに当社が開発した御守です。

昨今、全国どこへ行っても代わり映えのない御守ばかり。そこで、これをご覧ください。なぜこの御守がそんじょそこらのものと違いいかに素晴らしいか御守の表と裏に『かずあそび』としてゴギョウカで表現してあります。いえ、ゴエイカ(ご詠歌)じゃなくて五行歌です。

なに?文字が細かくて読めない。老眼鏡を厠に置き忘れた?ご住職は新聞をそこでお読みになってる。ン、カミ(紙)とホトケは相いれないからご本堂に持ち込まない、ご立派。でも今はにっちもさっちもいかなくなり、神にもすがりたいって?

いえいえ、大丈夫です!!仏にすがるんです!なに、その物言い、どこかで聞いたことがあるって。まあ、そんなことはどうでもいいんですが、あ、文字が細かくて読めないんでしたね。じゃあ、読んで差し上げますね。まず、表書きは

『いち、に、さん、し

 ご、ろく、しち、じゅう

 はち、く、がぬけて

 やくはらい

 あとはいいことまつばかり 』

と八・九をはずして厄(やく)を落とすと。

裏面には

『百円もって 御守り買って

 お薬師さまに おまいりすれば

 こころに

 十一縁観音さま

 あられます 』

と書いてあります。

つまり、参拝者にこの寺にお参りしていただき、お賽銭として百円をお願いする。それからこの御守をお渡しする。そうすることでまずご本尊のお薬師様が「八九(厄)」を引き受ける。授かった御守には十一円が入っていて十一面観音(十一縁観音)。どうです、算術的にも理論的にも立派なもんでしょ、洒落もここまでくれば。

えっ、そちらへの卸価格ですか?充分値引きさせていただきまして九十四円ではいかがでしょうか?ただし、中身の十一円はお寺様で補充していただく必要があります。

えっ、『ちょっと待った!おかしいやろ、仕入れ価格と中身で百五円かかるのにそれを参拝者に百円で買うてもろたら、差引五円の赤字。利益なんぞないわ、その都度五円の持ち出し、つまり、売るたびにジヒ(自費)で工面せないかんちゅうことやんか?』ですって。さすが、関西の方は計算が早いですね。まあまあまあ、参拝者にご利益(りやく)を与えることでお寺の利益(りえき)は考えない、それが仏のジヒ(慈悲)に通じます、それが僧職のあるべき姿ではないかと思います。

『しょうもないことぬかして。どついたろか、はよいねや!』

はい、ゴエンもなかった、ということで、失礼しました」

                             (完)


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