バイト
私は急いでいた。
とっても急いでいた。
早くしないと、バイトに遅れるのだ。それなのに、なぜか異常なほど準備に時間がかかる。どうしたらそうなるのか分からないが、やれ靴下を履き忘れたじゃ、歯磨きをしていないじゃ、玄関と部屋との往復を繰り返す。
しかしまあ、なんだかんだバイトには間に合ったようだ。某ドーナッツ店のカウンターで、私はせかせかとお客の注文を受ける。
だが、さっきからどうもおかしい。
客が出してくる注文に、知らないものが多過ぎるのだ。
サラダなんて、この店にあっただろうか。それに、グラタンやハンバーグセットなどやたらにしっかりした食事メニュー。ドーナッツ屋なのに。
いつの間に、こんなに新メニューが増えたんだ。
私は怒った。
メニューが変わるのは仕方のないことだが、ひと言くらい言ってもらわないと困る。
見覚えのないメニューにたびたび焦りながらも、私はなんとか注文と料理出しをやりこなしていった。
――しかし、そこで私はふと気づいた。
待てよ。何かおかしくないか。
店内って、こんなに広かっただろうか。照明は、こんなに薄暗かったか。制服も、どことなく違うような気が……
頭上に明るく表示されているメニュー板を見ると、その写真はドーナッツではなくハンバーガーばかりである。
私は口を開けて凍りついた。
バイト先間違えたぁー!!!!!
* * *
「ほわぁっ!」
私は布団から飛び起きた。
やばい。バイト。遅れた? 何時。今は何時何分なんだ。
食いつくようにアナログの目覚まし時計を見ると、時刻は午前八時を指している。私は何度もその時間を頭の中で反芻した。
午前八時。今日のバイトは午後からである。大丈夫、余裕で間に合う。バイト先も間違えてないし、そもそもまだ出かけていない。体はまだあったかお布団の中。
「……ああーっ、夢でよかったぁー!」
私は心底安堵して息をついたのだった。
ゆめうつつ 鈴草 結花 @w_shieru
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