第101話 扇動 (現実)
「な……なんでいきなりこんなに読む人が増えたんだ?」
本当なら読者が増えてランキングに入ったならば喜ぶべきところだが、あまりに唐突で戸惑いの方が大きい。
「私に聞かれたって分かんないよ……ツッチー、なにかしたんじゃない?」
美香もかなり困惑している。
「いや、普通にこの前更新しただけだけど……」
「この前の更新って、例の、黄金騎士の話? ……まさか……」
「と、とにかく感想とかレビュー、読んでみよう……」
ひょっとして、なにか炎上するような騒ぎになっていて、それで注目が集まっているんじゃないかと思いながら、まずはレビューを読んでみた。
「『~セクハラ、モラハラ、パワハラに悩まされている社員達よ、今こそ立ち上がれ!~ この作品は、おそらく実在する一般社員が、数々の理不尽な仕打ちに耐え、立ち向かい、書き上げた傑作だ! コミカルな異世界転生描画の中に、実際に同僚達と協力して戦い、勝利した現実世界の記録が色濃く反映されている! これを読んで、社畜として上司に尻尾を振り続ける自分が恥ずかしくなった! この話を読めば、自分もなにかを変えたくなるはずだ!』……これ、なんか俺たちの行動を知っているかのようなレビューだな……かなり大げさだけど」
「そうね……言い回しが仰々しいし……ひょっとして、これがメールを送ってきた『黄金騎士』の人の書き込みじゃないの?」
「……なるほど、それはありうるな……それに、レビューって滅多に投稿されないけど、書いてもらえると結構注目を集めるんだ。それがこんなに短期間にたくさん……他のも見てみよう」
「うん!」
レビューの一つ目がわりと好印象っぽかったので、美香も安心したようだ。
そのほかにも、
「私も、この作品を読んで勇気づけられました。全国の虐げられている社員の皆さん、正しいことは正しいと言える会社を目指して、頑張っていきましょう!」
とか、
「これ、実際にあった話を題材にしてるんじゃないかな、と思います。今もまだ最強の敵を相手にしているっぽいし……ただ一つ言えることは、主人公は善で、敵の大ボスは完全な悪だということです!」
など、好意的なレビューが続いている……一発目のレビューに触発されたのかもしれない。
それに呼応するかのように、感想も、好意的……というか、作者ではなく、読者に向けて「共に立ち上がろう」的な書き込みが続いていた。
「……まあ、好感が持てる意見が多くて安心したけど……それでも、なんかうまく行きすぎているような気がする……」
「そうね……扇動されているというか……一時的なものかな?」
「扇動……そうか、これは例の『黄金騎士団長』が動いて、多分その仲間も賛同して、それに触発された読者達が立ち上がったんだ!」
「……それって、ヤバくない?」
美香は若干、怯えている。
「……まあ、大丈夫じゃないか? だって俺の小説だぜ? 元々はコミカルな内容だし」
「そ、そうよね。ツッチーの小説だしね。そんな影響力あるわけないか……」
彼女も、無理矢理納得しようとしていた。
と、そのとき、俺のスマホの呼び出し音が鳴り響いて、二人でビクッと肩を跳ね上げさせた。
電話の主は、虹山秘書だった。
戸惑いながらも、その呼び出しに出てみる。
「はい、土屋です!」
「もしもし、土屋さん……美香さんも一緒?」
「あ、はい、そうですけど……」
「今、会社が凄いことになってて……何十人もの人たちが、夜だというのに会社に集まってきているの」
「はあっ? ……言っている意味がよく分かりませんけど……それって、なにかヤバいことなんですか?」
「……その反応からすると、土屋さんには心当たりがないみたいですね……ヤバい、っていう表現が正しいのか分かりません。ただ、ネガティブではないと思います。その方々は、何がきっかけか分からないけど、『結束してこの困難な状況を乗り越えよう!』っていう、いわば『有志』が集っている状況だからです」
「へえ……ウチの会社にも、そんなに血気盛んな人たちがいるんですね。まあ、会社がまずい状況の時に、自発的に頑張ろうという人がいるのは良いことかもしれませんね。僕はまねできませんが……」
結束してなにかに立ち向かおうという心意気は凄いと思うが、俺はそんな大騒ぎは苦手だ。
基本的に単独行動が多いし、力を合わせるとしても、せいぜい数人で行動するのが精一杯だからだ。
「そうですよね……土屋さんはそんなタイプじゃないでしょうし……ただ、その人達、気になることを言っていて……なんとか騎士団、とか……」
「……騎士団!?」
思わぬキーワードに、俺は大声を上げてしまった――。
会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった エール @legacy272
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