第100話 日間ランキング (現実)
この日も、会社は重苦しい雰囲気に包まれていた。
社運をかけて開発されたネット・クラウド・ソリューションシステム、「ラ・ミカエル」はライバル会社の月齢ソフトシステムによりプログラムコードを盗まれ、「ハーデス」として発表されてしまっている。
世間では、いわゆる産業スパイか、あるいはそこまでいかなくても「ヘッドハンティング」による情報流出が噂されていた。
そして俺は、どういうわけか警察から事情聴取を受けたことが広まっており、容疑者のように陰口を叩かれた……もっとも、「あいつがそんな大胆なことができるわけがない」、「そんな度胸ないよね」という過小評価の方が大きく、すぐに警察からも解放されたこともあり、そこまで邪険にされたわけではないが、良い気分はしない。
俺と付き合っている美香も、やはり同じような扱いを受けたらしい。
まあ、彼女の人柄を知っている者達からは、励ましの声も届いていると明るく話していたのだが……。
社長秘書の虹山さんや優美、風見、佐藤主任やその彼女の渡辺さんなど、信頼できる仲間はいるものの、備前元専務という強大すぎる敵――おそらく、すでに月齢ソフトシステムに取り込まれているだろう――に対抗するには、あまりにも脆弱だった。
あいつにどれだけひどい仕打ちを受けただろう。
俺だけじゃない。
渡辺さんも佐藤主任も被害者だ。
いや、奴によって会社を辞めざるえなくなった人の噂は、いくらでも聞いていた。
どれだけ恨みを持つ者が多かったとしても、奴には届かない……唯一、俺が社長の力を借りて、一矢報いることができただけだ。
しかし、それでも奴はくたばらず……それどころか、我が社『シーマウントソフトウエア』自体を窮地に陥れてきたのだ。
ネットで応援してくれる、力になりたい、という書き込みはあった。
しかし、「敵に回すと恐ろしいが、味方につけると頼りない」のがネット民だ。
正直、「黄金騎士団」を名乗る者の援護など、全く期待していなかった。
残業して疲れていた俺は、帰宅してもネットを見る気力さえなく、そのまま寝ようとしたのだが……。
玄関のチャイムが激しく鳴り響く。
驚いてインターホンのカメラを見ると、美香が血相を変えてそこに映っていた。
慌てて外に出ると、彼女は、
「ちょっと、ツッチー、何があったの? どういうこと?」
と訳の分からないことを言ってきた。
「どういうことって……どういうことだ?」
「気づいていないの? 今日、『会社丸ごと異世界召喚』見てないの?」
「……俺の小説? 何があったんだ?」
「もう……とにかく、見てみてよ!」
事情が飲み込めないまま、美香の勢いに押されて、取り急ぎ投稿サイトにログインする。
「……『48件の感想が書かれました』……48件、だって!? ……レビューも8件も書かれている……」
今までに見たことのない数字が表示され、驚愕する。
「それだけじゃないよ……日間ランキング、見てよ!」
「……日間総合……3位!?」
想像もしていなかったその事実に、俺は唖然とした――。
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