第13話
いくら木葉と仲良くなっても、全ての妖怪に心を許したわけじゃなく、今も妖怪はそのほとんどが基本的にかかわり合いたくない相手だった。
男はそんな私の心中を察したのかこう言った。
「どうやらこの姿がお気に召さないようだね。なら、これならどうかな?」
その途端、頭に生えていた角が見えなくなる。木葉もそうだけど、妖怪の中には人間と変わらない姿になれるのもいる。おそらくこの男もそうなのだろう。
もっとも、今の私が見れば、体が透けて見えるという大きな違いがあるのだけれど。
「どうかな?」
改めて男を見る。その態度は飄々としていて、今一つ何を考えているのか見えてこない。だけどこうして向き合った以上、嫌だと言っても大人しく去ってくれるとは思わなかった。
「話って何ですか?」
決して警戒心を解くことなく尋ねる。
「そうだね。まずは自己紹介から始めようか。僕の名前は
木葉の名前が出てきたとたん、自らの表情が変わったのが分かる。
「木葉を知ってるんですか。今どこにいるんです?」
食い入るように尋ねると、彼は困ったように肩を竦めた。
「落ち着きなよ。僕はただヌシ様から伝言を預かっているだけだよ」
「伝言?」
ヌシ様というのは木葉の口からも何度か聞いたことがありあの社も元々は人間達がヌシ様を祭るために作られたものだと聞いている。だけど実際に会った事は一度もない。木葉が言うには社までに出向くことも滅多に無く、森の奥で人間達から離れ過ごしているそうだ。そんな人が私に一体何の用があるというのだろう。
困惑する私に、鹿王と名乗った妖怪は言った。
「これ以上木葉の心を乱すな。早い話が、こうして探しに来るのはやめろってことだよ」
「――ッ」
告げられたと同時に、そのあまりな内容に言葉を失う。それは到底聞き入れられるものじゃなかった。
「どうしてそんな事を言われなきゃならないんですか!」
声を荒げながら言う。やめろと言われて止めるくらいなら、初めからこんな所まで来たりはしない。だけどそれを聞いた鹿王は言った。
「どうしてかって?それに答える前に、まず僕から質問させてもらうよ」
激しい言葉をぶつけられたばかりだというのに鹿王に焦る様子はみられない。私が音にも言わないのを肯定と受け取ったのか、彼はさらに言葉を続ける。
「君はこの数日の間、毎日木葉を探しにこの辺りまで来ているよね。だけどもし木葉を見つけたとして、その後どうしたいんだい?」
「それは…」
すぐには言葉が出てこなかった。今までただやみくもに会いたいという気持ちだけで動いていて、会った後のことなんてちゃんとは考えていなかった。
だけど一呼吸おいて思う。どうしたいのかなんて分かっている。いつも貼っているつまらない意地をなくして自分の気持ちに素直になれば、その答えは自然と出てきた。
「会ったら、まず話をしたい。今までの事に、残り僅かかもしれないけどこれからのこと。何で急にいなくなったのかも、ちゃんと聞きたい。それに、私がアイツをどう思っているか、全部話したい」
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