第14話

一気に喋り終えた私は、彼の様子を窺う。果たしてこの答えが正解なのかは分からない。だけどこれは紛れもない私の本心だ。

 私が心に秘めて思いを全部言って、木葉の言いたい事を全部聞く。それからどうするかは、話が終わった後に考えればいい。


「君が木葉をどう思っているか。それは所謂好意という奴かな。もちろん男と女という意味での」

「……」

 一歩間違えればセクハラにもなりかねない発言に少しだけ躊躇するけど、それに怒るようなことはしなかった。相変わらず本心の見えない彼の態度の中、一瞬だけ顔つきが変わったような気がしたから。


 少しだけ迷い、それでも言う。いつか木葉に伝えようと思っていた気持ち。その『いつか』はいずれきっと来るものだと、何の根拠もないのに勝手にそう思っていた。もしかしたらこのまま、永遠に言えずに終わるかもしれないというのに。

 それを思うと、もうこの気持ちを言葉にするのに迷いはなかった。


「私は木葉のことが好きです。たとえ残された時間がほんの少しでも…ううん、それならなおさら、木葉のそばにいたい」

 言ってから、さすがに恥ずかしくなって顔が赤くなる。何しろこんな事、木葉にも直接言った事は無い。何年もの間心の奥にしまい込んでいたんだ。


 だって、今更言うのは何だか恥ずかしい。だって、私みたいな意地っ張りで可愛く無い奴がこんなこと言うだなんておかしい。それを何で今日いきなりあった人に言わなきゃいけないのだろう。

 だけど私の羞恥心なんてお構いなしに鹿王は言った。


「なるほどね。君は木葉のことが好きで、だからもっとそばにいて話もしたい。ちなみに、深い仲になりたいとは思っているのかい?」

「なっ…」

 予想外の言葉に、元々赤くなっていた顔を更に真っ赤にしながら絶句する。いくらなんでもこれはセクハラだ。


 彼の言う深い仲というのは、男と女の関係で言うところの深い仲であり、つまり……あまり大きな声で言えないような事を指しているのだろう。

 そりゃ木葉を異性として意識する以上、そういった想像を全くして無かった訳じゃない。だけど、とても聞かれて答えられるものじゃない。


 すっかり狼狽していると、鹿王はそんな私の反応がおかしかったのかクスクスと笑っていた。

 それを見てイラっとする。さっきから思っていたけど、やっぱりこの人はどうにも信用できないし、好きになれそうもない。


「何なんですかいったい!」

 カッとなって文句をぶつける。思えばさっきから私の質問にはちっとも答えてくれず、全く関係の無い事ばかり話している。

 今はそんな場合じゃないというのに、このまま木葉について教えてくれないのなら時間の無駄だ。

「失礼。さすがに初対面の女性に聞くような事じゃなかったね。答えなくてもいいよ」

 立ち去ろうとした私を呼び止めながらも、特に反省した素振りは見えてこない。だけど彼は、それからわずかに声の調子を落として、言った。


「ただ、これから言うことはよく聞いてほしい。その想いは君の命を縮めるよ」


「えっ…」

 放たれた言葉はあまりにも予想外で、私はその意味を理解できなかった。

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