再び夏祭り
第8話
回想を終え、再び木葉の方を向く。初めて出会ってからもう五年。今や私も高校生だ。思えば随分と長い時間一緒に過ごしたものだ。
おまけにこうして一緒に夏祭りにきているだなんて、出会った頃は想像もしていなかった。
「かき氷食べたい。あと、綿菓子とイカ焼きとフランクフルト」
一方木葉は、私が何を考えているかなんて知る由もなく、自分の食べたい物をあれこれ催促してきた。
「はいはい。それじゃ、買ってくるからここで待ってなさいよ」
神社に入る事の出来ない木葉を残し、私は祭り会場へと向かった。お参りする気も無く、完全に屋台の食べ物目当てだけど、神様には広い心で許してほしい。木葉は射的や金魚すくいもやってみたいと言っていたけど、立ち入ることができない以上諦めてもらうしかない。
「あれ、志保じゃない」
屋台に並んでいると名前を呼ばれた。声のする方を見ると、そこには高校のクラスメイト数人の姿があった。
「みんなも来てたんだ」
実は高校へと進学した私は、妖怪が見えると言う事は上手く隠し、新しい人間関係を構築していた。所謂高校デビューというやつだ。
これは木葉の提案によるものだった。
私は友達なんて無理して作らなくても良いと言ったのだけど、木葉はせっかく人間関係がリセットされるんだから、これを期に新しい友達を作った方が良いだなんて保護者みたいな事を言った。
結果的にこうして学校でも友達をつくる事が出来たのは感謝している。おかげで小中とは違い、いたって平穏な高校生活を送れている。
「浴衣とは随分気合が入ってるね。さては彼氏とでも一緒に来たの?」
私の格好を見て一人がそんな事を言う。木葉の事は皆には話したりしていないけど、私の発言の節々から仲の良い男の子がいるというのは仲間内では周知の事実になっている。とはいえ彼氏だなんていった覚えは一度も無い。
「そんなんじゃないってば。一人で来たの!」
声を荒げて否定する。だけどそれは逆効果だった。
「慌ててる」
「怪しい」
彼女らはそう言ってニヤニヤとはやしたてる。それどころか
「それじゃ、これから一緒に回る?一人で来たんなら別に良いでしょ」
「えっ……」
それは困る。一緒に回っては木葉の所に戻れないし、戻っても妖怪である木葉を見る事が出来ない彼女達からすれば、私が何をやっているのかわからない。こんな時、何と言ったら切り抜けられるのだろう。
「あんた達いい加減にしなさい。志保が困ってるじゃないの」
困る私を見かねたのか、とうとう一人が助け船を出してきた。
「せっかく彼氏と二人きりなんだから、邪魔しちゃ悪いでしょ」
木葉を彼氏と誤解している事は置いといて、気づかいには素直に感謝する。その子にお礼を言うと、頼まれていた物を買いそろえ、一人木葉の所へと戻って行った。
食べ物を手に木葉の姿を探す。ところが元の場所に戻っても、何度あたりを見回しても、一向に木葉の姿が見つからない。
「木葉!木葉!」
何度か名前を呼びながら、それと同時に焦りが出てくる。
早く出てきなさいよ。そう怒ったように言いながらも、その声にはいつの間にか不安の色が混じっていた。
と、そこでいきなり後ろから肩を叩かれた。
「ここだよ。志保」
振り返ると、そこにいたのはいつも通りの木葉だった。
「だから、いちいち出てくるたびに脅かすなって言ってるじゃない!」
かき氷を持ったままの手で頭を一発叩く。
「痛っ、冷たっ。待ってよ。さっきから俺はずっとここにいたよ。志保が素通りしたんじゃないか」
「うるさい。私には見えなかったわよ」
言い訳をした罰としてもう一発叩く。
「落ち着いて。かき氷がこぼれる!」
木葉は私の手からかき氷を奪うと、周りに飛び散った分を残念そうに見ていた。
「ほら、アメリカンドッグも買ってきたから元気出しなさい」
「おぉっ!」
差し出した途端に木葉は元気になる。こうしていると何だか私はこいつを餌付けしているような気分になる。
私も自分用に買ってきたリンゴ飴を袋から取り出す。祭囃子を聞きながら、それぞれ自分の分を口へと運ぶ。
「そう言えば、さっき誰かと一緒にいたみたいだけど、学校の友達?」
アメリカンドッグを食べ終えると、木葉がそんな事を聞いてきた。
「あんた、どこで見てたのよ?」
彼女らと話していたのは神社の外れだったとはいえ、木葉が立ち入れる場所じゃないはずだ。
「空の上から。時間かかってたからナンパにでもあったのかと思って。神様の力も、ある程度高く飛べば及ばないからね」
「もし本当にナンパにあってたら、あんたじゃ助けに来れなかったわね」
空から見ている事しかできないんじゃ何にもできないだろう。そう思ってけど、木葉は首を振った。
「手はあるよ。上から石を落とすとか」
「危ないからやめて!」
ヘタをすると私に当たる。さすがに冗談だと思うけど、ちっとも面白くない。
買った物を全部平らげた私達は、いよいよ神社に用が無くなった。不信心で申し訳ない。
「さて、これからどうしようか」
もちろんこのまま帰ることもできる。だけどまだ遅い時間でもないし、もう少し木葉と話をしていたかった。
「近くに蛍の綺麗な場所があるけど、見に行く?」
「行く」
私がそう言うと、木葉は再び背中に羽をはやし、私を抱きかかえて宙を舞った。
間もなくして、私達は近くを流れる小川のほとりへと降り立った。
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