第7話

 自分の作った腕輪をダサいと言われて落ち込む木葉。それでも、この腕輪で重要なのは見た目では無くご利益の方だ。


「ねえ、木葉。本当にこれをつけていれば妖怪に襲われることは無いのよね?」

「うん。それは保証する」

「私がつけてるのを見て、まんまと騙されて、あんなダサいのつけてるって笑ったりはしないわよね?」

「しないよ!って言うかそんなに言うほどダサい?」

「ダサい」


 こればかりは私のセンスから言ってどうしようもない。だけどこれで妖怪に絡まれることが減るなら、身に着けるのがどうしても嫌というほどでは無かった。

 それに何より、木葉が私のためにわざわざ作ってくれたというのが嬉しかった。


「まあ、本当に効果があるって言うんならもらっておくわ。ありがとう」


 全部の気持ちを口に出すと恥ずかしいから、簡単な言葉でお礼を言う。それを聞いた木葉は顔を明るくさせたけど、それからすぐに心配そうに言った。


「でも、そんなにダサいなら学校でからかわれたりしない?」


 どうやら私のダサい発言がよほどショックだったみたいだ。ここまで引きずるのを見るとさすがに少し悪いと思う。


「平気よ。今更こんなものつけて行っても、またいつもの奇行だと思うわよ」


 私の通う中学の生徒は全員同じ小学校から上がってくる人達だ。元々周りから浮いていた私にとって、多少からかわれてもそれはいつものことだ。

 なのに木葉はますます顔を曇らせた。


「それって大丈夫なの?」


 木葉はきっと、初めて会った時に私が、友達がいないと言って泣いていたのを思い出しているのだろう。たしかに私は、ずっと心のどこかに寂しい気持ちを抱えていたような気がする。ただそれを口にするとますます悲しくなりそうだったから、ずっとその気持ちに気付かないふりをしていた。そのはずだった。


「平気だって。言いたい奴には言わせておけばいいのよ。今更気にしないしね」


 それは強がりでは無く、最近は不思議と本当にそう思えるようになってきていた。その原因は、たぶん目の前にいるコイツにあるだろう。


「なに?」


 私がじっと見つめていたからか、木葉が不思議そうに声を上げる。


「何でもない」


 思えばこいつも物好きな奴だ。妖怪のくせに人間の私と友達にならないかなんて言ってきたばかりか、一緒にいる間私が何度腹を立てることがあっても決して離れようとはしない。

 そんなおかしなやつと一緒にいると、今まで感じていた寂しさなんていつの間にか忘れてしまっていた。




 それからしばらく話をしてから私は山を下りる。こんな事を随分と続けているのだから、物好きなのは私も同じか。少し前までは妖怪となんて関わりたくないと思っていたというのに。

 いや、それは今だって同じだ。もし妖怪の姿を見かけたとしても、無視をして決して自分からは近寄らないと決めている。だけど木葉と共に過ごすのだけは、なぜか少しも嫌とは思わなかった。



 それからも私は、暇さえあれば木葉に会いに山へと出向き、木葉もまた、たまに町へと顔を出すようになった。時には腕輪の効果がきかない妖怪から私を守ってくれたり、あるいは一緒になって逃げたりしたこともあった。

 会ってもすることといえば他愛のないお喋りくらいのもので、私にいたっては悪口や文句を言うことも多かった。これは私の捻くれた意地っ張りな性格によるものだけど、本当はそうやって過ごす時間をとても楽しいと感じていた。




 ずっとそんな事を繰り返しながら、私達はいつまでも一緒にいるものだと、何の根拠も無しに思っていた。

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