いつかまた刺激的な日々 - 2

 ……ははあ、なるほどね。「記憶を消す」というと、君はこのシーンを想起するわけだ。だから目を閉じたのか。

 こんな光をパシャって当てるだけで記憶が消せるなら苦労しないよ。ははっ、なんだこれ。人間の考える宇宙人って、こういう感じなのか。想像力が豊かなのはいいことだね。

 へえ、映画なのか。なるほどね。移住してきたら観てみるとしよう。

 さて、直前の記憶はどこかな……。ああ、頭の中で声が響くのは少し気持ち悪いだろうけど我慢してくれ。本当なら君には眠ってもらうところだが、それはそれで申し訳ないからね。なあに、すぐ終わるさ。

 つくづく思うけど、人間ってのは非常に複雑だよね。思考と記憶と感情と、実に多彩な電気信号パターンがここまでごっちゃり絡み合ってるのはなかなかにレアだ。おかげで探しにくいったらありゃしない。

 おお、見つけた。

 へえ! なんだかキラキラ光ってるね。私の視界と君の視界がこんなにも違っているとは思わなかった。

 ……あれ?

 それ以外の記憶はそうでもないじゃないか。私がいる記憶だけこうも輝いてるのは、一体全体どういうわけだい?

 ああ、さっき言っていたな。人間が交尾して子孫を残すのは誰でもいいってわけじゃないって。まずは好きになってから、だっけ?

 なるほど……いや、なるほどね。好きになるってこういうことだったのか。

 少しだけわかったよ。

 いいねえ、人間ってのは。毎日がこんなに刺激的なんだ。

 ……なんだか消すのが少しだけもったいない気もするけど、規則は規則だ。

 怖がらないでくれよ、別に痛くなんかないから。大丈夫、一瞬で終わる……ほら、もうできた。これでいいだろう。

 ああ、まだ消えないよ。消えるのは私が君の体から去った後だ。私が君の身体を離れると同時に、君の記憶からは私に告白したあとの記憶が一切合切消える。それから、私と交わした会話のうち調査に関わるものも全部ね。

 おいおい、そんな悲しげな声を出すなよ。

 私は帰ってくるって言っただろう? また君と会える日だって来るさ。まあ、猫の発声器官じゃ今までみたいに話すことはできないけども。

 それにしても君の身体は居心地がいいね。この身体じゃなくて君の身体を借りればよかったかな? ああ、でも、それだとこうやって君と話すことはできなかったのか。

 ……さて、準備はいいかい?

 告白した直後からの記憶が空白になる。ちょっと戸惑うだろうけど、ちゃんともう一回断ってあげるから安心してくれ。

 安心できない? それもそうか。でも大丈夫、悪いようにはしないから。

 じゃあ出るよ。


 ほいっ。

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