第4話 ナチュラルボーンレスラー


コンビニを出ると駐車場の車止めに座っていた紫色のドカジャンを着たイカつい男が立ち上がり荒久須に絡んできた。


「オイ!テメー!!今、俺のサングラス見て笑ったろ!」


「わわわ笑ってないでしゅ!」


「何がおかしいんや!テレンス・リーとおそろやぞ!」


「そそ、そうなんでしゅか!しゅごいでしゅね!で、でも笑ってはないでしゅ!」


「アウトレットで2万やぞ!定価いくらやと思ってんねん!」


そう言って荒久須の胸倉を掴んだ。



「まちな!」


そこに現れたのは他でもない岸田可憐そのものだった。


「オイそこのムラサキドブハゲ!その薄汚い手はなせ!」

「薄汚い手で弱いもんイジメてんじゃねぇぞ!」

「ほんと薄汚ねぇ手をしてやがんな!」


可憐はムラサキドブハゲの手が薄汚いことにやたら執着していた。


「なんだァーこのアマァ!いてこますぞワレェ!…手汚くないわ!」


「手と一緒に眼球洗ってきな!バイキンが浮き出てっだろ!」


「キレイキレイで洗っとるわ!あと禿げてないからな!このブス!」


「女の子にブスとか言うな!義務教育からやり直せ!道徳の授業8時間受けろ!」


「てめえが先にイチャモンつけたんやろがい!女だと思って調子乗ってるといてこま…」


と、ムラサキドブハゲが可憐を殴りそうな勢いだったので勇気を振り絞って荒久須は後からムラサキドブハゲを掴んだ。


「僕のためにケンカしないでくだしゃい!」


「てめえなに邪魔しとんねん!いてまうぞこらぁ!」


「しゅみましぇん!!」


その時、荒久須はムラサキドブハゲを掴んだまま後に勢い余って倒れ込み、結果的に見事なバックドロップが決まってしまった。


ムラサキドブハゲは完全に気絶したようだった。


「おい!逃げっぞ!」


可憐は荒久須の手を引っ張り全速力で走り出した。


荒久須は胸のドキドキを隠せなかった。

チンピラに絡まれたのも初めてだったし、そして淡い恋心を抱いていたあの岸田可憐と手を繋いで一緒に走っている。

…いや、荒久須の足が遅すぎて完璧に引きずられている。


「…ここまでくりゃ大丈夫だろ。あれ?おめぇこの前の亀か?名前なんてぇんだ?」


「あれっくしゅ…しゃかい あれっくしゅでしゅ。」


「え?何?外国人?」


「日本人でしゅ。あれっくしゅでしゅ。」


荒久須は自分の滑舌の悪さを呪った。


「アレックスか!あたしは岸田可憐、よろしくな!」


そう言って挨拶がわりに顔面を殴った。

荒久須はかなり痛がりながらも喜んだ。


「それよりさっきのバックドロップめちゃくちゃイケてたぞ!どこで習ったんだ?学生プロレス?」


「習ったことなんてないでしゅ!自然にやっちゃっただけでしゅ!」


「自然にって天才かよ!ナチュラルボーンレスラーかよ!」


そう言って荒久須の頭を叩いたが、例のごとく彼は嬉しがっていた。


「照れてんじゃねえよ。気持ちわりぃなぁ。…よし!アレックス!ちょっとついてこい!」


可憐はスタスタと走っていった。



可憐はそう思いながら身の丈そしてほどの金色の稲穂を掻き分けると目の前には大きな川が流れていた。


「あっちだ!」


川には円柱形の柱のような物体が橋のように横たわっていた。


「これは昔、市長が建てたモニュメントだったんだ。…邪魔だから倒して橋にした。」


可憐はそのままヒョイヒョイと飛び跳ねながら橋を渡った。


荒久須も負けじとついて行こうとするが、円柱なので足元がおぼつかず、しがみついたまま逆さにぶら下がって、しまいには川に落ちてしまった。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


壊れたおもちゃのように笑い狂う可憐。



「まぁいいや。笑えたからよし!合格だ!アレックス!」


いつの間にか入部テストのようなものが始まっていたらしい。


荒久須が軽く溺れかけていると、たまたま通りすがりの亀が荒久須を背中に乗せてくれた。


川を渡りきり亀に礼を言い、ふと横を振り向くと川上の方に大きめの橋が架かっていた。

こんな橋を渡らなくてもよかったのに、わざと渡らせたのだ。

しかしこんな危険な目にあったにも関わらず、胸の高鳴りが恋心へと自動変換された。


「これが吊り橋効果…。」


それは少し違う。


「こっちだぞ。」


だんだんと日が沈みつつあった。

その夕日はまるで…まるで…なんかめっちゃくちゃ綺麗だった。


しばらくけもの道を歩いたその先に古びた学校に辿り着いた。

どうやら生徒の姿は人っ子一人いないところを見ると廃校のようだ。


ツタが絡まる体育館の入り口には「熊の穴」と手書きで看板が書かれていた。

そして可憐は誇らしげに言った。



「ようこそ。ここがグダグダプロレス(GGP)のアジトだ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

余命50年の花嫁 駒弦 @komagen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ