第3話 遥か彼方の(コンビニ)サンクチュアリー


どれほど歩いただろう。荒久須はいつのまにか繁華街へとたどり着いた。

空にはギラギラと死兆星が輝いていた。


「欲しいものがなんでも手に入るというコンビニ…」

まだ見ぬコンビニに期待に胸を膨らませ、気づけばCカップになった。


荒久須はコンビニに行くついでに映画館にフラッと立ち寄った。


「いらっしゃいませ」

「ガチャ歯一枚」

「大人一枚でよろしいですね。」

「ふぁい」


館内でキャラメルポップコーンを買い、真っ暗な館内を恐る恐る歩き自分の席を見つけ、大人のラブストーリーを描いた映画「グイグイ来る」をしばらく集中して鑑賞した。



─────スクリーンの中で男女が会話している。


「美咲さん、キミといると公園も遊園地みたいに楽しいよ。ほら、今度はジャングルジムで遊ぼう。今なら待ち時間もないよ。」


「うん。…でもそれよりちょっと休憩しない?」


「えっ!まだデート始まったばかりだよ?」


「いいじゃない!ねっ!ねっ!60分だけ!」


映画を観ていた荒久須はふと岸田可憐の事を思い出した。


(あの子にまた会いたい…)その気持ちが大きく大きく膨らみ始め、やがて睡魔に変わった。


──でかい鼻ちょうちんを作り居眠りしていると

スクリーンの中の役者がこちらに話しかけてくる。


「荒久須よ、こんなところで油を売ってる場合か?」


眠気眼で荒久須は「ふぁい!」と返事をして目を覚ました。

まだこれが現実なのか夢なのか定かではなかった。



なにか気配を感じ横を振り向くと、買っておいたポップコーンを食べようとしてる隣の席の男と目が合った。寝ている間に男にほとんど食べられてた。


「ちょ!」


怪訝そうな表情を浮かべ荒久須は劇場を後にした。


そして再び地図とコンパスを頼りにコンビニを探し歩いた。

向かいのホーム 路地裏の窓

こんなとこにあるはずがないのに。


30分は歩いただろうか、ふと大通りに面した寂れた居酒屋の前で立ち止まった。

看板には「有名人お忍びの店 "the忍"」と書いてあり、電飾でハデにライトアップされていた。


するとどこからか話しかける声が聞こえた。


「お兄さん飲み放つきで2時間3000円だよ。どう?」


荒久須はキョロキョロと見回したが声の主が見当たらない。


「おい、お前入るなら入れよ!」


その声は居酒屋の屋根からだった。

上を見上げると羽の生えた奇妙な生物がそこにいた。


「うわぁあなた何!?」


「何ってガーゴイルだよ!この店の守り神だよ!」


「しゅみましぇん!ガーゴイル初めて見たんで。」


「ガーゴイル慣れしてない奴もいるんだな。

おい、ちょっと数が多いからって人間ごときが思い上がるなよ。地球はな、動物や昆虫、植物もガーゴイルも含めて生物なんだよ。」


「はい!しゅみましぇん!ガーゴイルさん!」


「ガーゴイルさんとか言うな!お前は人間に向かって"人間さん"とか言うのか?オレにも"黒沢トメ"という立派な名前があるのだからな。…まぁいい、そこで何つったんてんだ?」


「コンビニを探しておりまして…。」


「よし案内してやるわ。乗れよ。」


そう言って目の前に背を向けてしゃがみこんだ。荒久須はちょっと恥ずかしそうにおんぶ

された。

黒沢トメは荒久須を乗せて翼をはためかせて上空に飛びたった。


「…これは優しさではない。オレのプライドだ。…わかるな。」


空を自由に飛ぶなど初めての体験に心踊らせ

トメの背中に嬉ションを漏らした。


「おい、漏らしたな…。」


動揺してフラつくトメの飛行に、ついガーゴイル酔いをしてゲロを頭に浴びせてしまった。


「お前…。時代が時代だったら殺してたぞ。」


そう言ってからはしばらく無言で飛んでいた。


その後、何かを見つけたのか急降下した。


「ありがとうございましたー。4800円になりますー。」


トメは急に営業スマイルで荒久須に金の催促をした。


「えっ、…あ、はい。」

まさか金を取られるとは思ってなかったが、目的地まで連れてきてもらって、ゲロや小便かけたことを考えると仕方ないのかと金を支払った。


しかしおかげでようやく探し求めていたコンビニにたどり着いた。



「ここが……コンビニ。」



思ったよりこじんまりとした、このガラス張りの建物がどこから入ればいいのか荒久須は戸惑いの表情を見せた。


パントマイムのようにガラスを手でつたい、

入り口らしきところでノックしようとグレーのマットの上に立ち止まると、なんとドアが自動で開いたのだ。


「…向こうからお出迎えってわけでしゅね。」


コンビニの中に恐る恐る入るとそこには足の踏み場もないほど、至る所に商品が並べてあった。


「これが……商品。」


日用品から本やお菓子や食品、あらゆるものが陳列されていた。


「欲しいものがなんでもある。ここは天下の台所でしゅね…。」


しかし沢山の商品の山に囲まれていても肝心の"凄十"は見つからない。

飲む用と保存用と鑑賞用と合わせて最低3つは欲しいのだ。


カウンターで暇そうにしている40代くらいの女性定員に尋ねた。


「あ…あのすみません。凄十3つくだしゃい」


「ハァ!?」


「コンビニ始めてきたんでしゅけど、凄十っていうか商品しゃがしてるんでしゅが…。」


「ハァ!?」


「あ…あのすみません。凄十み…」

「ハァ!?」


3回目は被せ気味に言われた。


そんなやり取りをしているとバックヤードから一人の黒いタキシードを着た店長と思わしき男が現れた。


「ウチの部下が大変失礼いたしました。お客様何かお探しでしょうか?」


「あ…あのすみません。凄十3つくだしゃい!」


「凄十3つ…。お客様お目が高い。

…しかしこの店は基本的に"鬼発注・鬼在庫"をモットーにしております。見ての通り店は商品で溢れかえってます。お望みのものが見つかるかどうか…。」


「そこを是非なんとか!」


「かしこまりました。お客様は神様です。お客様の命令は絶対です。」


そう言ったあと「ハッ!」っと掛け声とともに商品の海に飛び込んだ。

クロールで商品をかき分けながら泳ぐ様はとても美しかった。


しばらく声が聞こえなくっだかと思うと「プワッ!」という息継ぎとともに店長が顔を出した。そしてまるでガッツポーズのように拳を高く振り上げた。

もちろんその手には凄十を掴んでいた。


「砂漠でダイアモンドを見つけたみたいだ。」


店長は若干的外れな喩えを残し、ニヤリと笑った。


「シェンキューでっしゅ!」


荒久須は感謝の言葉と共に土下座をした。


「土下座するほど大したことしてないですよ。お顔を上げなさい。お客様。」


「はい。かしこまりましゅた。」


そのままレジに二人は向かい凄十3つを買った。

「しゅみましぇん。1つはそのままで、残り2つは紙にちゅちゅんでもらっていいでしゅか?」


「贈り物か何かですかね?」


「自分用でしゅ。」


店長はクスッと笑い、紙に包んだ凄十の袋を荒久須に渡した。


荒久須は宝物のように凄十の袋を抱き抱え外に出た。


そこには怪しげな男が一人立っていた。

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