そして彼女は暴走した。

 りょうくんが、これからは二人以上で行動するように、と言ってから、私はどうしたら沙也加さやかちゃんを守れるかを考えた。

 博貴ひろきに頼まれているから、とか、それだけじゃなくて。

 私が、守りたいから。

 彼女を失いたくないから。


 幸運……なんて、そんな風には思えないけれど、私の血は花人を枯らすことができる。

 だから、もしも沙也加ちゃんが襲われそうになったら、私が身代わりになればいい。

 そうすれば、私が枯れるほど飲まれることもなく、相手を枯らして危険を消すことができる上に、沙也加ちゃんを守ることができる。


 沙也加ちゃんはきっと嫌がると思うけれど、女子である私たちには、全力で襲ってくる相手に抵抗できるほどの体力はない。

 抵抗できないのなら、そうするしかないのだ。


 だから、毎日毎日、ことあるごとに頭の中で今襲われたらどうするか、シミュレーションを脳内でしながら行動していた。


 まさか、自分が襲う側になるだなんて、考えたこともなかった。


 血が足りていないな、とは思っていた。

 だって、飲んでいないから。

 飲みたくないから。


 私の血を飲んだ人は枯れた。

 なら、私が血を飲んだ人はどうなるんだろう。

 血を飲んだら私はどうなってしまうんだろう。


 案外、普通かもしれない。

 だけど、なにか取り返しのつかないことがあったら、私は後悔してもしきれない。


 飲まなきゃいけない。

 飲めない。

 怖い。


 そうやって吸血行為をあとまわしにしていたから、なのかもしれない。

 かもしれない、じゃない。確実にそうだ。


 それは、移動教室の授業の前。

 私が忘れ物をして、四人で教室に取りに戻る途中で起きた。


「……っ!」


 腕の中から筆記用具とノートが落ちていく。だけどそれをとることはできない。

 胸元を必死に掴んで、衝動を抑えようとする。

 立ったままだとそのまま襲い掛かってしまいそうで、無理矢理しゃがみこむ。


 お願い。

 飲みたい。

 落ち着いて。

 喉が渇いた。

 おねが――。


 もう、無理。


「いば――っ」


 勢いよく、一番小さい彼女に襲い掛かる。

 押し倒して首筋に食らいつこうとすれば、ものすごい力で首を引っ張られる。


 苦しい。

 邪魔しないで。

 お腹が空いたの。

 喉が渇いたの。

 飲ませてよ。


 ねえ。


 小さな痛みが、二の腕に走る。身体が意思に反して数度痙攣する。

 力が、抜けていく。

 同時に、視界が暗転した。

 最後に見えたのは、ひどく悲し気な彼女の顔だった。

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