そして彼女は、大切な人を守ることを決めた。
花人病患者の土地へとやってきて、一か月。
私は無事に高校に入った。
そして、
了くんは、いい人だとは思うんだけど、なんとなく怖く感じた。
秀とどことなく似ているんだけども、でも、なんだか雰囲気が違うから、なのかもしれない。
なんだか、なにを考えているかわからなくて。
了くんと比べたら
いや、わかりやすい、とはちょっと違うけれども。
薫さんのほうが、なにを考えているのかを示してくれやすい、のかも。
中性的な人で、なんだか温かい人。
沙也加ちゃんは美人さんだ。しかも、優しい。
一番に声をかけてくれて、いつも一緒にいてくれる。
授業でわからないところがあって困っていても、こっそりと助けてくれるし、移動教室のときは、忘れ物をしていないか、と確認を何度もしてくる。寮からだって、毎朝一緒に学校に登校してくれるし、それに、食事だって一緒にとってくれる。……いつもってわけじゃなくて、たまに誘っても、先約がいるからって断られちゃうけれど。
私にもしもお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな、なんて思ってみたり。
だから私は、ついつい彼女に甘えてしまう。
「沙也加ちゃん、宿題、ここの問題わからないんだけど……」
「ああ、そこ、難しいよね。ここにこの五を代入して……」
沙也加ちゃんの部屋で、私たちは宿題をしている。……私一人で解いていても、つまずいてしまって、結局沙也加ちゃんに解説を求めてしまうことが多くて。それなら二人で一緒にやったほうがいいね、となり、こんな形になった。
「すごい! 沙也加ちゃん、わかりやすい! ありがとう」
「どうも」
お礼を言えば、沙也加ちゃんは少しだけ顔を赤くして自分の宿題に戻ってしまう。
沙也加ちゃんは、普段はそんなことないのに、お礼を言うと、たまに照れてしまう。いつも綺麗な印象を受けるけれど、そういうところはなんだか可愛くて好き。
「そういえばさ。沙也加ちゃんってときどき了くんと一緒にいるところを見かける気がする」
「そう?」
「お昼一緒に食べてくれないときとか、夕方一緒に食べてくれないときとか、夜、電話しても出てくれないときだって、きっと一緒にいるんだろうなあ、って思ってる」
「え……なに、やきもち?」
やきもち?
やきもちってなんだっけ? お餅じゃなくて……。
私はこの間図書館で読んだ雑誌を思い出す。
やきもち……あ、思い出した。
「沙也加ちゃんをとられて、やきもち妬いてるのかも」
沙也加ちゃんは驚いたように、薄墨色の瞳を丸く開いてから、ゆっくりと細める。
「別に了とはいばらが思っているような関係ではないよ。ただ、まあ……私も了も同じ秘密を持っていて、他の人に血を与えることができないの。だから、二人で吸血行為をしているだけ」
「秘密って?」
「……ごめん、それは、言えない」
いばらのことを、信用してないわけでも、嫌いなわけでもないけれど、どうしても言えない。
そう、沙也加ちゃんは言う。少しだけ、苦しそうな顔で。
そんな顔してほしくないから。
沙也加ちゃんには笑っていてほしいから。
それが、博貴の願いでもあるわけだし。
「ううん、大丈夫。気にしてない。私も、秘密を持ってるし、言えないことは、言わなくていいんだもん」
本当は知りたいけれど、でも、踏み込んだ結果として相手に不快な思いだけはしてほしくないから。
それから数日後。
沙也加ちゃんが、花火に誘ってくれた。
浴衣と髪飾りを選ぶのに沙也加ちゃんに手伝ってもらって。
着方がわからないから、と当日浴衣の着付けと髪のセットまで沙也加ちゃんにしてもらって。
ああ、甘やかされてるなあ、なんて思ったりして。
そして、花火を見て。
あまりの綺麗さに感激しながら、この花火を、あの二人も見ているのかな、なんて感傷に浸ったりして。
そのまま。
幸せな気分のまま、一日が終わればよかったのに。
私は、暴走した花人に襲われて。
三人に、助けられて。そして、自分の生い立ちを話すことになった。
本当は生い立ちも話してはいけなかったけれど、この三人ならきっと大丈夫だと思って、話した。
自分が作り物だって知ったら、この人たちは私への態度を変えるのだろうか、なんて考えが少しだけ脳内をよぎって、胸が痛んだ。
だけど、そんなことはなかった。
みんな、優しい。
抱きしめてくれた沙也加ちゃんの身体は、すこし冷たくて。だけど、温かいな、と思った。
その心が、沙也加ちゃんの心が、温かい。
ここにいていいんだなって思えた。
博貴のお姉さんである、なんてことを除いても。
私は彼女を、守りたいと思った。
私の血なら、彼女を守れると思った。
ただ、この人を失いたくなかった。
この人に、泣いてほしくなかった。
ごめんね、秀。
だから、この人が泣かないように。
傷つかないように。
そのために、了と薫のことも守ろうと、そう決めた。
その翌日。
花人が突然複数人、行方不明になった。
いつものことだとみんな流していたけれど、やっぱり違和感を感じる人は多かったみたいで。
それが、毎日続いて、徐々に徐々にみんなの中に、恐怖が芽生えていった。
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