花人たちを誘拐していたのは。
目を覚ませば、私は自分の部屋で寝ていた。
チャイムが、鳴っている。
このチャイムはなんだ。
橙色に染め上げられた部屋。
見上げれば、溶けていくように光をこぼしながら沈んでいく太陽。
ああ、夕飯の――。
そこまで考えて、飛び起きる。
頭がくらりとしたけれど、構っていられない。
なんとか意地で堪える。
夕飯を食べ終えても帰ってこなければ、探しに来いと言っていたけれど、そんなの、できるはずがない。
待ってなんていられない。
固い音がしたけど、振り返っている余裕なんてない。
私は部屋のドアを開き、駆け出した。
頭を駆け抜けていくのは、最近の行方不明者の顔。
そして、先日遭遇した、地下室での、枯れかけの花人。
はやく、はやく三人を見つけないと。
取り返しのつかないことには、なってほしくない。
私に一番に声をかけてくれた
いつでも見守ってくれた薫。
私のことを頼ってくれたいばら。
誰も、失いたくない。
どうか、どうか、間に合って。
学校に辿り着き、もつれそうになる足で、それでも全力で走りながら、片っ端から地下室のドアを開き、三人を呼ぶ。
返事がなければ、次へ。
たまに枯れかけの花人に遭遇して慌ててドアを閉めるけれど、どこにも三人はいない。あの日の夜に四人で行った地下室にだって、いない。
まさか、もう、枯れてしまったのだろうか。
想像してしまえば、視界がにじんでいく。
同時に足が止まりかける。
それに気付き、意識して右足を前に踏み出す。次は左足。そうやってできるだけはやく互い違いに足を前に出す。
立ち止まっている暇なんて、あるはずがない。
とにかくこの土地の、すべての地下室を見て回るのだから。
まずは一番可能性の高い、この高校の地下室を、全部見なきゃ。
開けて、閉じて、開けて、閉じて――……そして。
「いばら! 了! 薫! いる!?」
やっと、二人を見つけた。
安堵。
だけど、それは一瞬で。
右手を抑えている薫は、真っ青な顔でその場に座り込んでいる。
その後ろに広がっている茨と、蒼い
手を伸ばす。
そんな、嘘だ、と。
真実じゃないと、知るために。
どこかにいばらは隠れているのだと、信じるために。
一歩、足を前に出す。
「いば――」
「来ないでください!」
飛んできた声の鋭さに、ビクッと肩が震えた。
驚いた拍子に、踏み出したほうの足に体重をかけてしまう。
そのまま、支えきれなかった足は崩れて、私は前に転ぶようにして、座り込んだ。
後ろから響く、重い施錠音。
薫の綺麗な顔が、歪む。
よく見れば、スカートの裾から見える足は、木の枝が生えて伸び続けていて、絡まりついて、その上で葉や花が咲いている。
つま先に近い花は、枯れていて。
蒼い薔薇のすぐ下には、枯れた花々が粉になり、そしてその端からさらさらと消えていく。
いばらは、咲いてしまった。
薫は、枯れかけている。
近くには、枯れて、消えかけている花々。
了に視線を向ければ、感情の読めない表情で、私をじっと見ている。
「了……?」
了と薫以外に、ここに人がいるようには見えない。
そして二人は、それなりに離れたところにいる。
位置的には、いばらに血を飲ませた結果、薫は枯れかけているのかもしれない。
了は……了には、傷一つ、ない。
「嘘でしょ……?」
この状況から導き出される結論なんて、一つしかない。
「ねえ、了……?」
行方不明者を、地下室に連れていったのは、了だということ。
そして、二人がこうなっている原因は、了にあるということ。
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