やってきたその少女は、まるでお人形のようだった。
「
セミロングの青みがかった黒髪が、揺れる。
蒼美さんは、先生に指示された私の隣へとやってくる。
ぴょこぴょこという擬音がうしろから追いかけてきそうな歩き方で、なんだか小動物みたいだ。
席に着いた彼女のほうになんとなく顔を向ければ、こちらを振り向いた彼女が、あわあわとしたあとに、両目をつぶって小さく会釈を返してくれる。
可愛い子だな、と思った。
小さな顔は陶器のように白い。頬と唇はほんのりと色づいている。
黒目がちの大きくて丸い瞳は、髪の毛と同じように青みがかっている。
お人形みたいな、可愛さだ。
だからなのか、すこし近寄りがたく感じてしまう。
それは他の人も同じだったのか、それともやっぱり、興味はあるけれども他の人と話しているほうが有意義だからなのか。
ショートホームルームが終わったあと、彼女に話しかける人は誰もいない。
ぽつん、と一人椅子に座って俯いている彼女は、酷く寂しげで。
だけどそれさえも作られた空間のように綺麗だ。
でも、きっと、心細いと思う。
私はここに、初めての場所に、一人でいるのは、心細かった。
よし、と決めて口を開く。
「蒼美さん」
ビクッと小さな肩が震えて、パッと可愛い顔がこちらを向く。
予想通りの小動物染みた反応に、すこしだけ表情が柔らかくなるのを感じる。
「私、
名乗った瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。
そのまま固まってしまった彼女に、私は眉をひそめる。
「蒼美さん……?」
名前を呼べば、ハッと我に帰り、彼女はワタワタと慌てながら声を発する。
「え、えっと、そ、蒼美、いばら、です! よ、よよ、よろしくおねぎゃ、おねがいしみゃ、おおおお」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて……?」
彼女の肩に手を伸ばしてポンポンと叩けば、少し落ち着いたのか、彼女は少し目を伏せて、うう、と唸る。
「よろしくお願いします……。うう、緊張する……」
「そんなに?」
「はい……。私、ここに来て、初めて大人数の人間を見て……頭がどうにかしてしまいそうです」
はあ、と小さくため息をつく彼女。
大人数、と言われれば、まあ、確かに、学校に通う前に行く施設にはたくさん人がいる。
「疲れちゃった?」
「少しだけ」
えへへ、と笑う彼女はやっぱり可愛らしい。だけど不思議とあざとさは感じない。
「瀬戸さんが話しかけてくれて、嬉しいです」
「そう?」
「はい!」
キラキラと効果音と効果が入りそうな笑顔。
なんだこの子は。可愛いだけじゃない。
ただただ眩しい。
「敬語じゃなくていいよ。名前だって、好きに呼んでくれていいから」
「え? じゃあ、えっと――」
タイミングがいいのか悪いのか。
狙いすましたように、チャイムが鳴る。
私たちは急いで、次の授業の支度を始めた。
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