その話を、兄はどんな気持ちでしていたのだろう。

 りょうの突然の発言に、私は思考が停止する。

 吸血鬼?

 了が?

「え、でも、吸血鬼って、国内にはもういないんじゃ……?」

 すると了は、眉を寄せて、少し寂し気に目を細める。

「……いないよ、俺以外はいなかった。もう。……少しだけ、聞いてくれるかな。俺の生い立ち」

 拒否する理由もないので、私は頷く。

 安心したように少しだけ了の表情が緩む。

「俺の父親は吸血鬼なんだ。父親は人間の知り合いたちを頼って、なんとか吸血鬼狩りから逃げていたんだ。そして共通の友人を通じて、俺の母親と出会った。そのまま仲良くなっていって、俺が生まれた」

「了のお母さんも吸血鬼だったの?」

「いや、俺の母親は人間だった。だけど、父親と暮らし始めたときに吸血鬼になったみたい。……授乳、するだろ? 母乳って、もともとは血液だ。吸血鬼の血を取り込むことで、人間は吸血鬼になる。……俺は赤ん坊の頃に、吸血鬼になったんだ。母親は、幼い俺を自分の妹に託した直後、父親と共に不審死を遂げた」

「え……?」

 それは、吸血鬼だとばれたからなのか。

 でも、それならその子供である了が殺されないはずがない。

 それに吸血鬼は、その場で心臓に杭を刺されて首をはねられるか、棒に縛り付けられて太陽に焼かれるかのどちらかで殺されると決まっている。

 その疑問が顔に出ていたのか、了が口を開く。

「吸血鬼だってばれたわけじゃないよ。発見されたときは、誰か判別がつかないような状態だったらしいし……見てすぐに吸血鬼だとばれるような身体の部位はすべて跡形もなく消えていたから、死んだあともばれることはなかった」

「え、どういうこと……?」

 殺されたのだとしても、わざわざそういった部位を除く必要があるのか。

園田そのだ家って知ってる?」

 急に出てきた苗字に、私は首を左右に振る。

 聞き覚えなんて、ない。

「まあ、知らないよね。昔は有名だったらしいんだ。精霊遣いとして」

「精霊遣い?」

 初めて聞く単語に、私は首を傾げる。

 精霊は聞いたことがある。

 実在する種族だけれども、彼らを視界にとらえることができる人は稀だと聞く。

「精霊遣いはね、精霊と契約して、使役する、そんな一族だった。……それも、何代も前の当主が精霊との契約に違反して、怒った精霊によって力を奪われて以来、視える人はいなくなってたんだけど」

「それが、了とどう関係があるの?」

 よくわからなくて眉をひそめる。

「俺の母親、旧姓は園田なんだ」

「……精霊遣いのお家の人だったってこと?」

 了が頷く。

「そう。さっき言った、何代も前の当主が契約違反を犯したことが、実は当主を妬んだ当主の妹に嵌められてのことだと知った精霊が、その当主に謝りにきた。だけど、視える人がいない。当たり前だ、視える目は、その精霊自身が奪ってしまったのだから。だから精霊は、そのときに見つけた小さな女の子に目を与えて、自分の姿を見せた。そして、用件を話したんだ。そのときに精霊は、既にその当主は亡くなっていて、園田家も衰退し、精霊遣いを継ぐ人もおらず、ただの一般的な家になっていることを知った。永い時を生きる精霊にとっては一瞬でも、俺たち人間の間では何百年も時が流れていたんだ」

「もしかして……」

「その小さな女の子が、俺の母親。母親は、自分が視えることを誰にも言わなかった。言えばまた、妬まれて変なことに巻き込まれるかもしれない、と精霊が嫌がったらしい。結局母親は、不審死を遂げる直前、俺を自分の妹である園田家の女性に渡すときに、やっと自分が視えることを伝えた。そして、自分がやろうとしていることも」

 了の眉がキュッと中央に寄る。

 言い辛そうな間。

 急かすことはしたくない。

 だから私は口を閉じて、ただただ彼が話すのを待つ。

 やがて彼はゆっくりと口を開く。

「母親は、精霊を……園田と関わりの深い、その、花の精霊を使って、国内の人間に、とある病を、流行らせることにした、と、自分の妹に伝えた。母親と父親が不審死を遂げた直後、流行り始めた病があった。人々が、吸血鬼のように、血を求め、そして、花のように咲いたり、枯れたりする、不治の病……花人病」

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