そうして彼女たちは、親しくなっていった。
「ところで
驚いたように煤崎さんは、後ろへ少しのけぞる。だけど口角を上げたままだ。
「ヤキモチ? 大丈夫、いつだって本命は」
「どうして、なんですか?」
「……
おちゃらけようとした煤崎さんに、諏訪さんは真顔で返す。それに対して、流石に煤崎さんも真顔になる。
急に和やかな空気が消えてしまい、私は戸惑う。
私が煤崎さんと一緒に来たことが気に食わなかったのだろうか。
それは、とても寂しい。そんなに私のことが嫌だったんだろうか。
「あなたが変なことを考えてるんじゃないかって心配しているんです。私が納得するような説明をしてください」
しっとりとした栗色の瞳が、じっ、と深い紅色を隠したような焦げ茶色の瞳を見つめる。
しばらくにらみ合うような見つめ合いが続いて――焦げ茶色が、すいっと栗色から逃げるように瞳を私に向ける。
ほんの一瞬。諏訪さんの瞳が、悲し気に揺れたように見えた。
「似てると思ったんだ」
「……と言いますと?」
「薫と
煤崎さんの言葉に、諏訪さんは眉間にしわを寄せる。
「危うさですか? あなたのほうが私や瀬戸さんの何千倍も何万倍も危ういですけど」
「あはは。まあそんなわけで、仲良くできそうかと思ったんだけど、どうかな?」
誤魔化すように笑い声をあげて、焦げ茶色は静かに栗色を見つめる。
栗色が、私に移動してくる。そして、ふわりとそれは細められる。
「どうかな、なんて訊かれたら、頷かれても、頷かれなくても、いい気はしないですよね」
「え? あ、はい、まあ……」
突然話に参加させられて、驚きつつも頷けば、くすくすと小さな笑い声が、薄い唇からこぼれる。栗色は、また焦げ茶色へと戻っていく。
「仲良くできそうかどうかなんて、知り合ったばかりではわかりませんし、決めることでもありません。なにを考えているのかわかりませんが、あなたに紹介していただかなくても、友好関係くらい、自分で築いていきます。……というわけで、瀬戸さん」
「はい?」
再び栗色が私を捕らえて、細くなる。
「今日からよろしくお願いしますね」
両手で包んでいたスムージーの容器。そこから左手を離して、私に向けてくる。
なんだろう、と少しの間だけ凝視してしまったけれど、握手を求められているのだと気付いて、慌てて私も左手を差し出す。
キュッと控えめな力で握られる。
と、目の前に、異なった色の右手が差し出される。伝って主を見上げれば、煤崎さんだった。
私も右手を出せば、こちらはギュッと、少し強めの力で握られる。
「改めて、よろしく、瀬戸さん」
「……何度目かわからないですけれど、お二人とも、よろしくお願いします」
小さく頭を下げる。
「少しずつでいいですから、いつかはこの距離も埋まるといいですね」
距離。
おそらく、この、一つ椅子を挟んだ状態である、物理的な距離のことだろう。
「……善処します」
答えてから、ふと気づく。
もしかして、さっき、煤崎さんに隣に来てもいいのに、と言われたとき。
諏訪さんがするっと変な掛け合いに持って行ったのは、私が困っていることに気付いたから、なんだろうか、と。
気遣われてしまったんだ。初対面なのに。
それなら、できるだけ早めに、物理的な距離を縮めたい。
誰かに気を遣われるのは、なんだかもぞもぞして嫌だから。
*
「それで、彼らとは、距離は縮まったんですか?」
静かに問えば、彼女は微かに目を細める。
「……縮まりはしました。縮まらなければ、きっと私がここにいることはなかったし、あなたのお兄さんは、もう少し……もしかしたら、今も生きていたかもしれないです」
「……」
意味がわからない。
だからこそ、どう答えていいのかもわからず、俺はただ、薄墨色の瞳を見つめる。
ふと、その奥に深い紅色が混ざっているような気がした。
でも、そんなはずがない、と、心の中で頭を振る。
「……私たちは、毎日お昼に集まりました」
なにも答えずにいれば、彼女は静かな声で話し始める。
淡々とした口調は、けれど、そうあろうとしているようでもあって。
少しだけ胸が痛んだのは、そうさせているのが自分だと言う自覚があるからだ。
「そうして会って話すうちに、私たちは呼び方も、話し方も少しずつ変わっていって……そして花人病を発症してから四か月くらいが経ったある日。八月の、夏休み最終日。ちょっとした事件が起こりました」
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