『彼女』は本当に、美人だったらしい。
他の通貨は使用不可だけれど、決められた方法で両替することはできる。
その通貨、通称……というか、そのままなのだけれど、花人通貨の単位は、
バイトが許可される高校卒業までは、お小遣いと称して、月に一度支給される。高校を卒業すれば、この土地で働いて、稼ぐことになる。
「……オムライス、三百三十片……」
普段、自分のお金で外食なんてしたことがないから、これが高いのか安いのかわからない。
この中学に入る前の、研修期間のような一か月間は、向こうで決まった食事を用意してくれていた。服だって用意されていた。……つまり、今までお金を使う機会はなく、今、こちらに来て初めて、お金を使うわけだ。
「
「だ、大丈夫です!」
高くても安くてもいいや、オムライス食べたい気分だし、と、私はお金を入れて食券を発行した。
先に発券していた彼と共に受付口へ行き、女性に食券を渡す。ぺりっと気持ちいい音を立てて、女性が半分にちぎってくれた。
その片割れと、番号の書かれた札を受け取ったときだった。
「あ、いた」
「え?」
誰かを見つけたらしい彼は、私の腕を小さく引っ張ってから顎でその人を指す。
墨汁のような色をした長い髪に、心配になるほど白い肌の色。間違いない、今朝のあの人だ。
「行くよ」
「え、あ……!」
そのまま半ば引きずられるようにして、その人が座っている席まで行く。
すぐ隣まで行けば、彼女はゆったりとした動作で私たちを見上げる。そして私を見ると、不思議そうにパチパチと瞬きをする。
少し量が多くて長いまつげ。その隙間から覗く瞳は、綺麗な栗の色。目の形がスッと横に長いから冷たく感じそうなのに、柔らかな瞳の色だからか、優しく感じる。
なんていうか、美人さんだ。儚い雰囲気がとてもよく似合っている。
「よっす。一緒にいいかな?」
彼が片手を挙げれば、彼女は眉を上げ、淡く色づいた薄い唇を開く。
「別に構いませんよ。それにしても、女の子連れだなんて、珍しいですね」
予想外にハスキーな声に、え、と固まってしまう。
「
「あ、瀬戸さんっていうんですね。私は
諏訪さんは、彼の言葉をサラリと無視する。綺麗に弧を描く閉じられた瞼と薄い唇。本当に、綺麗だ。
それでも、声と外見との差の激しさに、私はパクパクと口を開閉することしかできない。
「あ、やべ。俺ずっと名乗ってなかった。瀬戸さん瀬戸さん。僕は
目の前で振られる手に、ハッと我に帰る。
「……あ、えっと……。
なんとか名乗れば、よろしく、と二人はにこやかに返してくれる。
番号を呼ぶ女性の声。ふ、と札を見れば同じ番号。横に影ができる。
「あ、呼ばれてるの、僕らか。……ってあれ、薫はなにも食べないの?」
先に座っているのに、諏訪さんの前には食事らしきものがなにもない。疑問を投げかけた煤崎さんと一緒に、私も小さく首を傾げる。
「私はこれで充分ですから」
煤崎さんが向けた視線に、諏訪さんは緑色のスムージーを振ってみせる。
「ちゃんと食べないと、枯れたり咲いたりする前に倒れるよ」
「大丈夫です、倒れても死ねませんから」
ハハッと笑い声をあげる諏訪さんに、煤崎さんは顔をしかめてみせた。
だけど、もう一度番号を呼ばれて、煤崎さんは諏訪さんから私へと視線を方向転換させる。
「いこっか」
「あ、はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます