そこは無人の町にある高校。

 門を開けば、ギギギッと嫌な音がする。

 使われなくなってそれなりに経つらしい。

 雑草が生えた地面を見て、当たり前か、とため息を吐く。

 この土地に住んでいる人なんて、いるはずがないのだから。


 ここは花人はなびと専用の土地。

 その中にある高校だ。


 花人病患者の寿命は、長くても発症してから十年。

 今日はこの土地に最後の患者が放り込まれてからちょうど十一年が経った日。

 本当は去年の今日、ここに入ってもよかった。

 だけど寿命とはいえ、十年ピッタリで死ぬわけではない。

 最後の患者がまだ生きているかもしれない以上、一年待つことを選んだ。


 花人病患者や吸血鬼に対して抵抗はないし、他の人ほど彼らに恐怖を感じることはないけれど、それでもやっぱり、殺されてしまうのだけは勘弁してほしい。

 まだ死にたくない。

 せめて、俺の兄貴になにがあったのか、花人病がなんなのかを知るまでは。……そんなことを言ったら、一生死ねなさそうだけれども。


 なんてったって、花人病は原因不明の不治の病なのだから。


 グラウンドだったのか、それとも庭だったのか。パッと見ではよくわからないくらい、ここにはたくさんの花々が咲いている。

 しかも季節もなにもかも無視して咲いているものだから、ちょっとした展示物みたいだ。

 桜の隣には向日葵が咲いているし、さっきは椿とすれ違った。

 この花々が、ほんの数年前までは自分と同じ人の形をしていただなんて、言われなければわからない。

 本物なのに、なんだか作り物みたいに感じた。


 昇降口の前に立ったとき、風が吹いた。

 隣に咲いている金木犀が揺れて、独特の心地いい香りが鼻をくすぐる。


 そっと扉に手をかける。

 前に押せば、抵抗もなくそれは開く。

「……」

 不用心だな、と思った。

 でももしかしたら、ここの鍵を持っている人は、鍵をかける前に最期を迎えたのかもしれない。

 そんな考えが頭を掠めれば、なんともいえない感情が胸の中でぐるりと回る。

 そうでなかったとしても。

 この町は花人病患者専用の土地で、そうではない人は、自分が襲われてしまうことを恐れて入ってこない。

 一人ぼっちでいたら、鍵なんて意味はないのかもしれなかった。……もうその人も、今は花になったか、枯れてしまったんだろうけれど。

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