その花たちは君にほほえむ。

奔埜しおり

花人病。

 えっと。

 皆さま、こんばんは。

 初めまして。

 園田そのだしゅう、と申します。


 あー……。

 こういった場……というよりも、たくさんの人の前で話すということに不慣れでして。

 少々……いや、だいぶ、緊張しております。


 あー、うん。

 あんまりこんなことを言っていると、また彼女に怒られちゃうので、話に入りますね。


 今日ここには、たくさんの偉い方々が集まる、ということを聞きまして。

 その中の一人として名前を連ねている友人に、少し無理を言って、今、お時間をいただいております。

 というのも、皆さまにお伝えしたいこと、そして、おたずねしたいことがあったからです。


 皆さまは、花人病はなびとびょうをご存知でしょうか?


 そうです、十六年ほど前まで流行っていた、あの病です。

 突然吸血衝動に襲われた患者は、血を飲み花となって咲くか、それとも血を吸われ尽くす、または血を飲めずに枯れるか。

 そんな、まるで吸血鬼と花が合わさったような病気。


 この病気は十六年前、突然なんの前触れもなく患者が出なくなりました。

 その原因はご存知でしょうか?

 そもそも……この病気の始まりを、どうしてこのような病気ができたのかを、ご存知の方はいらっしゃるのでしょうか?


 その病気について知るために、様々な方々があらゆる手を尽くしたことは存じ上げております。

 なんせ、僕も兄が花人病患者でしたからね。


 ええ、花人病患者……少し長いので、花人と呼びましょうか。

 花人は、発症してから適度に吸血をしていたとしても、長くて十年ほどで花になる。咲いてしまう。


 僕の兄は、既に亡くなっています。


 少し話がそれてしまいましたが……。


 あらゆる手段を駆使して、それでも、病気のモトを見つけることはできなかったことも存じ上げております。

 ああ、念のために申し上げますが、そのことを責めるためにここで話しているわけではありません。


 単刀直入に言いましょう。

 僕は花人病の始まりを、その原因を知っています。

 それをお伝えするため、そして、その上でおたずねしたいことがあり、ここにいます。


 そもそもの始まりは、三十六年前に起きた、吸血鬼による大量殺人事件。

 たった数人の吸血鬼により、一週間で四十人もの罪なき人々が殺されました。

 その事件を発端として起きた、吸血鬼狩り。

 約二年で日本国内の吸血鬼を全員狩り尽した、と言われています。


 そしてその一年後。今から三十三年前。

 これで平和だと安心していた日本国内で、花人病が発生します。

 吸血鬼が生き残っていたのだと思った人々は、患者の心臓に杭を打ちました。

 それでも、その患者は生きていました。

 周囲の人々の血を吸い続け、やがて一輪の可憐な花になったといいます。


 その病は徐々に徐々に広まっていき、政府は、各地に花人専用の土地を作りました。

 その土地に花人病を発症した患者は詰め込まれて行きました。

 仕方のないことです。

 原因がわからないことには、その人たちを治す方法なんてわかるはずがなかったのですから。

 そこから数か月で、人々は、吸血衝動に駆られている花人の動きを一時的に停止させる薬を完成させます。

 それを護身用に、一人一つ持ち歩くことが義務付けられるようになりました。

 液体状の薬を、注射器に入れた、あれですね。


 ああ、だめだ。どうしても話が横にそれていってしまいますね、僕は。


 僕がこのまま淡々と語っていってもいいのですが、それだと少し味気ないですから。

 それに、きっとそれでは、おたずねしたいことの意味も、よくわかっていただけないでしょう。


 だから僕は、とある人物のお話をいたします。

 

 僕は四、五年ほど前から各地に赴き、花人が咲かせた花を解放しています。

 そうです、最近では除草師じょそうし、なんて呼ばれています。個人的に、あまり好きな呼び方ではありませんが。


 その活動のために初めに訪れたのは、僕の兄が連れていかれた土地でした。

 そこで僕は、一人の女性と出会います。

 運がいいことに、その女性は僕の兄を知っていました。


 その女性と、そして、その友人たちのお話を、今から致します。

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