しゃべるケーキ!?
(さあ! 僕達で救おう!)
って……
「なんじゃこりゃぁああああ!!!!」
全身から漲る自信。今ならなんでもできそう……だけど。
柔らかくひらひらとした純白のドレスが風になびく。所々に散りばめられた苺の装飾。しぼり袋の様な棒状のステッキ?
まるでショートケーキの様な……。
「なにこの恥ずかしいかっこう!! なにこれ?? めちゃくちゃ痛々しいんだけど!」
――痛々しいとは失礼だなぁ~
「もう! さっきから誰!? これはあんたのしわざ?」
――そう! 僕と君との〝ティータイム〟最高のお菓子にドレスアップしたんだ!
「はぁ!? 何言ってるの、早くこのかっこどうにかしてよ!」
校舎裏には倒れたせいやくんしかいないけど、もしこんな格好見られたら死んじゃうよ!! 恥ずかしい……穴があったら入りたい。
……じゃない!! 早く、早く助けを呼ばなきゃ! あーーでもこんな格好で皆の前に出るなんて……いったいどうすれば。
(だーかーらー! ゆい! 僕達で救うんだ!)
せいやの前に漂う黒い塊は徐々に大きくなり、やがて見慣れた形になっていく!
それはまるで巨大な蝶。
柴色のりんぷんを撒き散らし、そのたくさんのキラキラはせいやをどんどん包んでいく。
「なに……これ?」
(ゆいっ! 時間がない! 早く助けなきゃ!)
不吉な輝きはせいやを包み込み、黒い球体の様になっていく。
「そんなこと言われたって……どうすれば」
(じゃあ、僕の合図に合わせて!!)
なんなのよ……ただせいやくんと話したかっただけなのに、せいやくんは怪我してて……それにこんなお化けみたいなの。本当に私に助けられるの?
「助けられるさ!! 僕がついてるから!」
突然、強く眩しい光が胸から飛び出した。少年の様な声の正体、それは昼間のデザートだったカップショートケーキ!?
「いくよ!! ゆいっ!!」
「えっ!?」
手と足がある……ケーキなのに、もう本当に意味がわからないよ。
でも、なんだろう。今ならせいやくんだって救える。根拠なんかないのに……そう感じるんだ!!
「「ホイップクリーム! リフレッシュ!」」
使い方なんて習ったわけでもないのに、自然と身体が動く!
しぼり袋の様なステッキを構えると、ふわふわのホイップクリームが飛び出して、黒い球体を溶かしていく!
「うう……」
「せいやくん!!」
や、やった!! なにこれ、魔法使いになったみたい。私が、助けたんだ!
「まだだ! ゆいっ!」
黒い蝶はせいやを助けられると、次はゆいへと矛先を変える。
小さなものとは違う、まるで怪獣映画の様な羽ばたきが起こす風圧が、ゆいのドレスを揺らす。それと同時に、再び柴色のりんぷんが鈍い輝きを帯びて襲ってくる!
(ゆいっ! 僕とシンクロしよう!)
「ど、どうやって!?」
――大丈夫! 僕に任せて!
〝シュガーチェンジ〟
ベリーホイップ!!!!
そう言うと喋るケーキは、またゆいの身体の中に戻っていく。
安心させてくれる様なケーキの甘い香りがゆいを包み、ドレスは更に輝きを放ち、淡いピンク色へと変わる。
苺の装飾は一つに集まり、可愛らしい髪飾りに! ゆいの長い髪をポニーテールに結んでいく。
(さあ、これで120%だ!! ゆいっ! 僕の声に合わせて動くんだ!)
「もうっ!! なるようになれ!」
ゆいはケーキの合図に合わせて、軽やかに降りかかってくるりんぷんを避ける! まるで空中を駆け上がる様に、蝶との距離をぐっと詰めていく!
(さあ、ゆい! フィニッシュだ! 両手を前に伸ばして!!)
「分かった!」
「いくよ!! ホイップクリーム! デコレーション!」
光のシャワーが両手から、蝶の元に降り注ぐ。すると、徐々に形が崩れていき黒い塊に戻っていく。
そして小さな球体になって、弾け飛んだ。
(……もう、いやだ。わたしはなにもしてないのに……)
「えっ? 今、なにか聞こえて……」
(やったねっ! ゆい!)
「こ、これは!? ゆいさん? どうしてここに!!」
「あ! せいやくん、大丈夫!?」
倒れていたせいやが目を覚まし、ゆいは地上に降り、すぐに彼の元に駆けつける。
「ゆいさん、そのかっこうは……!?」
「は、へ? ……あ!」
いやぁぁぁぁぁああああ!!!! そうだった、助けるのに夢中で忘れてた……! 私今、めちゃくちゃ恥ずかしいかっこうをして……。
「いやっ!! 見ないでせいやくん!! お願いっっ!!」
「そ、そんなこと言われても……ゆいさんも〝パティスリー〟なの?」
「えっ? パティスリー?」
「そうだぜ! と言ってもなりたてだけどね!!」
再びゆいの胸から現れたショートケーキ……まるで小さな子の絵の様な外見で、目があって、手と足が……。
「こ、これはなんでもないの!!!!」
「ふぎゃっ! 何するんだゆい」
「驚いた……。なりたてで、〝ブラックバリスタ〟の使いを倒してしまうなんて」
次々知らない単語が入ってきて、ただでさえドタバタしていたのに、もう頭がいっぱいいっぱいなゆい。
パティスリー? ブラックバリスタ? いったいなんなの。それに、せいやくんも……全然驚いてないし、もしかして何か知ってるの?
「それについては僕が説明するね!」
「うわぁっ! いきなり飛び出すな」
「いや……僕から説明するよ。ゆいさん、生徒会室までついてきてほしい」
真剣な表情でゆいを見つめるせいや。いつもの柔らかいイメージとは違った男の子らしい眼差し。
「実は……僕も君と同じ力を持った、パティスリーなんだ」
……つづく。
ショートケーキと抹茶プリン 四十崎 四十日 @aisaki_shitoka
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