ショートケーキと抹茶プリン

四十崎 四十日

ふしぎなであい♪

「きゃーっ!ゆい様さすがです!」

「ゆいはやっぱりカッコイイぜ!!」


 老若男女が取り囲むグラウンドのど真ん中で、大歓声に包まれている少女が1人。

 まるで声が届いていない様に振る舞っているかと思うと、タオルで汗を拭い、観客達に手を振った。


「みんな、ありがとう」


「「きゃーっ! すてき!!」」


 ただの運動会なのだが、まるで芸能人が来たかの様な盛り上がり。しかも……パン食い競争である。

 ゆいと呼ばれた少女はあっさりと一位になり、再び真夏以上の大熱気に包まれる会場……いや、校庭。


「さすが我らのゆい様!!!! 堂々の一位です! ……おっ!?  あれは!!」


 すると、今度は女子中心の黄色い歓声が張り上がる。赤くてながーい、金持ちかなんかが歩いて出てきそうなカーペットが校庭の表彰台まで伸びる。

 出てきたのはお金持ではなく、ブロンドの髪に大きな瞳が素敵な……そうまるで王子の様な少年。


「きゃーっ!!!! せいや様よ!!!!」


 せいやと呼ばれた少年は軽やかに笑顔を女子達に振りまく。実に手馴れている。

 その対応に観客達の(主に女子の)熱気がまた高まり、まるでライブ会場の様にテンションが上がっていく。


「おめでとう。ゆいさん」

「ありがとう、せいやくん」


「「きゃーっ!!!! 二人ともすてきぃーー!!!!」」


 ゆいはせいやから一位のメダルを受け取ると、何事もなかったかの様に教室の方に消えていった。

 ……それと同時に昼食を知らせるチャイムが鳴り、ひとまず熱狂は収まってくれた。いつの間にかカーペットも無くなり、各々レジャーシートなどを広げて、ようやく市立中学らしい運動会の姿に戻ったと言える。


――一方その頃。


「かぁぁぁ!! せいやくんマジでカッコイイって!! なんなのあの素敵オーラ! あんな近くで……」


 ゆいは教室に戻ると、自分の座席で悶えていた。それもそのはず、ゆいもせいやの事が大好きなのだ。あの黄色い声援が上がった時、一緒になって(心の中で)叫んでいたほど。


「ああ! もう! もっとお話したいのに~……でもいいんだ。憧れてるだけで」


 周りにライバルがいすぎるよ……。


 涙目で独り言を終えると、再び両親の待つグラウンドに向かうゆい。

 白いテーブルにティーセット……運動会のセオリーを完全に無視した設備が校庭の一角に設置されていた。


「ちょっと! お母さん、何これ!?」

「あらゆいちゃん! どう? とっても素敵でしょ??」

「どう? じゃないよ!! これじゃまたへんな噂が……」


「ざわざわ……ゆい様の御家族もすてき……ざわざわ……オーラが違うわよね……ざわざわ」


「ほらっ!! すぐに片付けて!」

「いいじゃない。可愛いんだし!」


 ゆいの文句を完全に無視した母親が取り出したのは、昼食のお弁当……ではなく、なんとオシャレなカップショートケーキ!


「なんでや!!」

「ゆいちゃん関西弁になってるわよ」


 呆れを通り越して放心状態になるゆい。嬉嬉として紅茶を入れる母の横顔からは一変も悪意は感じられない……のが怖い。

 さすがに見かねた母親は、すっと風呂敷包みの弁当箱らしきものを取り出して満面の笑みでゆいに見せた。


「ほーらゆいちゃん! お弁当よ!」

「そうそれ!! だから他は早くしまって!」

「ええー、美味しいのにぃ~」

「そういう問題じゃないの!!」


 白いテーブルにティーセット……は片付けて、学校の中で昼食を取ることに決まったゆい達。さっきまでいた教室に戻り、弁当箱を広げる。


「あ~あ、あのケーキ美味しそうなのに」

「……あ、あとで貰う」


 残念そうにケーキをしまおうとする母が哀れだったので、悪意もないようだから食後のデザートに貰う。

 それにしても……。


 あ~! マジでせいやくんカッコイイよなぁ~、食べたいくらい……。でも、告白する勇気もないし、やっぱりこのまんまでもいいかな。憧れてるだけでもお腹いっぱいだし……。私の魅力なんて家柄だけで……普通の女の子だもん。

はぁ……。


(そんな君を綺麗にドレスアップしてあげるよ!!)


「えっ!?」

「どうしたの? ゆいちゃん」


 今、なんか変な声が聞こえて。小さな男の子みたいな? でもこの教室私達しかいないし、運動会に遊びにきた小学生かな?


 それ以降は何も聞こえなくなり、やっぱり気のせいかと思うゆい。

 昼食を取り終え、グラウンドに戻り自分のクラスの位置に戻る。次の競技はクラス対抗リレー、周りはゆいの活躍に期待していて、何だがそわそわしている。


 次の競技を発表する放送と共に、出場選手はグラウンドに集まっていく。最初は男子の順番でゆいもせいやを探して目を泳がせている。だが……。


「ええー、一年四組のせいやくん。せいやくん、クラス対抗リレーが始まるのでグラウンドに集合してください」


 放送と同時に観客達がざわつき始める。出場選手達も不思議そうな表情をしている。それもそのはず、せいやは一度として遅刻や欠席をしたことがなく、優等生だと思われている。

 周りはトイレだろう、と仕方なく競技を進めることに。


(せいやくんのいない運動会とかただの体育じゃん!)


「ちょっと、私もお手洗いいってくるね」


 クラスメイトに一言いうと、大勢の人を掻き分けてせいやを探すゆい。


 いるわけないか、いたらアナウンス聞いてるだろうし。てことは、校舎の中かな? やっぱりトイレ? どっちにしても! せいやくんに話しかけられる最大のチャンス! どこにいるのかなぁ~。


 校舎の中は人ひとりいない所為で、薄暗く静まり返っている。昼間なのに、ちょっと不気味だ。

 

「せいやくーん? 競技はじまっちゃうよ~?」


 男子トイレの前から声をかけていくゆい。心臓がバクバクいっていて、顔が真っ赤だ。


 これ、嫌われないかなぁ。で、でもこれしか方法ないし!! い、いいよね!


 声をかけているだけなのに変な汗をかいているゆい。

 だが、まるで反応がない。人っ子一人、気配すら感じない。外は賑やかだけど、ここだけ別の空間に隔離されている様な……。


(ガシャーン!!)


「えっ!? う、うそ……やだなに??」


 突然窓ガラスが割れた様な音が校舎内に響く。それになんだか、校舎裏から物音がする。


 ちょっ、ちょっと!? わたしこういうのマジで無理なんだって!! まだ昼じゃん、そ、そういうのって夜じゃないの?? うう、足が震えてきたよぉ……。


 と言いながら、ちょっとづつ校舎裏の方に向かうゆい。怖いもの見たさである。

 近づいて行くに連れて音が大きくなっていく、まるで工事現場だ。


「せ、せいやく~ん? いるぅ~?」

「……うわぁっ!!」

「えっ?」


 せいやの声がした瞬間、怖さが一気に吹っ飛んで自然と向かう足が早くなる。


 もしかして、せいやくんに何かあったの!? 今の声、せいやくんだよね。あんな声出すなんて、怪我でもしてるんじゃ……。


 廊下を走って、近道で校舎裏に向かうと、そこにはなんと駐車場で倒れているせいやの姿が。

 そのまえには……謎の黒い塊が漂っている。


「せいやくん!! どうしたの!?」

「そ、その声は……」


 黒い塊はじりじりとせいやとの距離を詰めていく。ただならぬ雰囲気に、焦るゆい。


 どうしよう! 早く、き、救急車呼ばなきゃ!! でも携帯持ってきてないし……どうしよう。戻って誰か呼んでこなきゃ!


(ちょっと待って!! ゆい! ドレスアップだよ!)


「えっ?」


 不思議な光が一気に身体を包み込み、温かい気持ちが広がっていく。甘い香りが漂い、全身から自信が溢れてくる!!


(さあ! 僕達で救おう!)





 

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