第11話 VS三人の能力者
伊達の人生で二度目の七色インコを倒した後、二つ目の七色雫の結晶を手にした。
最早、午と未呑は竹刀で胸を突かれたように驚き、声も出ないようだった。
「ひひひっ。」
伊達は酸いような笑いで口元を緩めた。伊達にとって七色インコも七色雫の結晶も、レアなものではなく、その辺にある小枝や皮の様に有り触れたアイテムだった。
しかしここまでゲームに真剣な二人が
ここまで興奮し、爆発しそうな程いきり立っているのだから、本当にレアなものなのだろう。伊達にその気持ちは全く伝わらないけれど。
「えぇーとだよ。それで、午の
伊達は話を戻そうと
説明を面倒くさがる当人では無く、未呑に声を掛けた。
「あ、あぁ…その話だったけか。」
軽い放心状態から戻った未呑がハッとしたように顔を上げる。
「こーまでありありと伊達ちゃんの能力見せられちゃなー。午の
この話の続きを伊達は何となく察した。
"ゲームするのに回転率ってのは必須だろ?なんたって回転率が上がればレアモンスターに出会う確率も上がるんだから。"
だろう。
どこまで行ってもゲーム狂の二人の事だ。きっと午の能力もゲームの為に惜しみなく使っているに違いない。
「ひひひっ! 午の
伊達は出来る限り今の現状をまとめた。ようやく自分がここに貸し出された理由を明確に、的確に理解したのだ。
「物分りがいいのも
未呑みはそのくせっ毛をくしゃくしゃと掻きながら、少しバツが悪そうにそう言った。
「そんで、後はここに
そしてそう続ける。
「いや、あいつは無理だろー?なんたってお偉ーい社長様だからなーだるいわー」
"社長様"と聞いて、伊達の鼻はピクリと動いた。落ち着いていた筈の心臓が少し跳ね、ふと三紀猫の事を思い出した
。その名前を滅多に口にする事は無いが、聞けば必ず激怒し激昂する───
「………
三紀猫の宿敵、鼠入である。
いや、宿敵と言うにはまだ生温い。酷く嫌忌し、醜く怨恨している存在。
「まぁ、このメンバーで十分だけどなー」
未呑が軽く伸びをしながら、満足気にそう呟いたのを聞いて、伊達は安心した。まさかここに鼠入が来るような事があれば……少なからず三紀猫サイドの伊達としては良い気分でゲームは続けられないだろう。
二人がいがみ合った詳細を知り得ないとしても、それは関係無い。三紀猫の敵は自分にとっても敵なのだ。
鼠というは十二支の挨拶回りで、一番初めに神様に挨拶に行った干支である。それだけでもその名は知れ渡り、知名度が高いと言うのに、この世界で鼠入は大手企業の社長様ときた。
「こんな事ならもっと早くお前に声掛けときゃ良かったよーまじだるいわー」
ゴロゴロとしながら至極だるそうに文句を垂れる牛を見ながら、伊達は今回の交渉材料として自分が役に立つならきっと今がベストタイミングだったのだろうと思う。
もし、声を掛けられるタイミングが早ければ
もし、鼠入が気まぐれで手伝っていれば
もし、二人がゲーム好きで無ければ
もし、二人が七色雫の結晶を既に持っていたら
もし、自分に
沢山のもしもが積み重なった偶然で、この場は成り立っているのだ。いや、もしかしたら偶然ではなく必然。神が三紀猫に与えた奇跡───なのかもしれない。
とまぁそんな馬鹿な話はきっと無いのだろうけれど。伊達が少しだけ、神の奇跡を信じるには足りる程の偶然が積み重なった事は確かだった。
「それじゃあ引き続き、七色インコを狩るとするんだよ。」
「おっ、やる気満々だねぇ伊達ちゃんっ。」
少しこのゲームが楽しくなってきた伊達は、口角を上げながら、ひひひと高く笑い、その画面に目を落とした。続くように、牛と未呑もゲームに再度集中する。
伊達は近くに湧いているモンスターを倒しながら、ふと三紀猫の事を思い出していた。鼠入の名前が出たからだとも言えるが、そう言えば三紀猫は今、何をしているのだろうかと思ったからだ。
自分がこうして牛と未呑の相手をしている今、彼は一体何をしているのか?まさかサボってゴロゴロしているとは思いたいくは無いが。まぁ自分もこうしてゲームをしているだけなので、似たようなものだけれど。
何人か居場所の分かる奴がいると言っていたから、もしかしたら他の十二支と対峙しているのかもしれない。何か大騒動を起こしていないと良いが、三紀猫の性格上、話し合いよりも戦闘を好むだろう。
心配だ。
伊達は三紀猫の粗野で乱暴な一面を知っていた。ここ何百年も彼を追い、彼と共に行動しているのだから当然と言えば、当然だ。
普段は明るく天真爛漫で、楽観主義で心安い性格だが、その反面──気持ちが昂ったり血が騒ぐと、周りが見えなくなってしまうのだ。まるで、手の付けられない子供の様に。
伊達の中には、早くこのゲームを終わらせて三紀猫の元へ戻りたい反面、七色雫の結晶を集めるだけでは無く、このゲームをやり遂げたいと言う二つの気持ちがせめぎ合っていた。
周りが見えなくなるのが三紀猫の欠点なら、完璧主義なのが伊達の欠点だろう。一度何かをやり始めると、その終末や終焉を自分の目で見なければ気が済まないのだ。
だからこそ伊達は長い間、飽きもせず三紀猫の傍をうろついていたし、それ以外の事に興味や関心を持たないようにしていた。
「まさか小生がゲームにハマる日がくるなんて、ねぇ。」
伊達は周りにいた最後のモンスターを倒し終え、その報酬画面を見ながら呟いた。
その順位、ちょっと待った! 遠藤 九 @end-IX
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