第10話 VSアニス渓谷


"七色インコ"


そう午が言った直後、伊達のゲーム画面には"KOGOKING"と"MIMI"と言う名前の2人から友達申請が送られてきた。


これはもちろん、目の前にいる2人からの申請だろう。伊達は迷うことなく申請許可のボタンを押し、簡易的に作られたパーティーへと加入した。


「その七色インコって言うのは、小生の能力が必要な位のレアなモンスターなのかよ?」


パーティーへ加入した後、KOGOKINGとMIMIがアニス渓谷へ移動してきたのを見て、伊達は不思議そうに聞いた。


こんなLv3やらLv5のモンスターがうようよといる中で、その七色インコとは一体何者なのか、流石の伊達にも分からなかった。レアだと言うことは、滅多にその姿を見せないと言うことだろう。


「とりあえずー…だるいから未呑、説明してー」


ぐるぐるとアニス渓谷を歩き回りながら、怠そうに午は言う。と言うより最早だるいのだと口に出してしまっている。


「ったく午はさー、本当に面倒くさがり屋なんだから。」


未呑は溜息を吐きながらも、ゲーム内のモンスターをうまい具合に避けつつ七色インコを探しているようだった。


二人のレベルは共にLv999。数字がピッタリ揃っている所と名前の後ろのスペースを見ても、これがMAXでありカウンターストップなのは誰でも分かるだろう。


そんな二人の事だ、アニス渓谷の雑魚モンスターなんて相手にしてられないのだ。しかし伊達にはまだ需要あるモンスター。二人がうまい具合に避けたモンスター達を地道に、しかし確実に倒していく。


「七色インコってのはさ、低確率で出現するレアモンスターでさぁ…まじでほんとに全く出てこない訳。一週間inしてて一匹出てくるかこないかのレベル。もう病むよ?」

「それはそれはまた…気の遠くなりそうな話なんだよ。」

「で、だよ。その低確率で出現するレア中のレアな七色インコが、これまた低確率で落とす、"七色雫の結晶"ってのがあって…ほんとーーーに反吐が出そうなんだけど、その"七色雫の結晶"を十個集めると"七色珠玉"ってのになるんだよねー。ここまではおっけー?」


伊達は現れた普通の蒼色インコを倒しながら、うんうんと頷く。


「その七色珠玉が二個、おれと午の分がいるんだよ。」

「それで、武器でも作るのかよ?」

「おっ!ご名答ー!」


未呑が嬉しそうに言ったその時


「おい!七色インコだぞ!」


と、午が大声で叫んだ。怠惰な彼女からは想像つかないその声色に、伊達は一瞬ビクリとしつつも"七色インコが出た"と言うKOGOKINGの元へと走った。


「すげーな、伊達。やっぱりお前の能力は伊達じゃないわー」


出会ってから初めて午の怠そうでは無い嬉々した様子に、なぜか伊達の顔が緩んだ。こんな楽しそうな表情もするんだな、と。見れば未呑もどこかワクワクした様子でゲーム画面に夢中である。


「なるほど、なるほどなんだよ。レベルが低いから倒すのは簡単なんだねぇ。」


七色インコはLv10。これが固定なのかは分からないが、Lv999のKOGOKINGとMIMIが一緒にいるのだ。ある程度のレベルを持つモンスターが現れたとしても大丈夫だろう。


そして七色インコとの初対戦が終わり───


「「うそ…だろ?」」


午と未呑は声を合わせて、唖然とゲーム画面を見つめていた。もちろん伊達も同じく戦闘が終わり、二人と同じ報酬画面を見つめている。


そこには確かに


"七色雫の結晶"


の文字があった。


「ありえねー…人生三つめだ……」

「あたしも…四つ目だよ……」

「小生は一つ目だよ、ひひひ!」


伊達はゲーム開始十数分にして、二人が生涯探し求めていた七色雫の結晶を意図も簡単に手にしたのであった。


「流石にこの要領の良さには引くわー」


口を開いた未呑は、はははと乾いた笑いを含みつつ伊達を見つめた。午はまだニコニコとしながら画面を見つめ、伊達は照れ臭そうに「次探すんだよ。」とフィールドをうろうろする。


「ところで、二人の能力って一体何なんだよ?」


やっと七色雫の結晶を手に入れた高揚感から解放された二人に、伊達はゲームの手を止める事無く聞いた。伊達は例外として、十二支には神の挨拶回りをしたその日、それぞれに一つづつ能力を授かっているのだ。


伊達の能力は要領クレェヴァ。何においても彼が行動する時には、その要領の良さが付き纏う。それは現実世界でもゲームの世界でも同じく等しい。


午はネットの掲示板でそんな伊達の噂を耳にし、今がその時!と彼をこのゲームへと誘ったのである。


まさか本当に十二支ではない伊達が能力を持っているだなんて、にわかには信じられない事だったが、こうして結果を出されてしまっては信じざるを得ない。


なぜ十二支では無い伊達が、そんな能力を持っているのか?伊達と神とのやり取りを知らない二人には分かりえない事だったが、そんな事はどうでもいいのだろう。二人には"七色雫の結晶が手に入った"と言う事実だけで十分なのだ。


「んー?これ、オフレコにしてくれるー?」


未呑は言う。もちろん伊達はオフレコにする事を約束する。


「じゃ、伊達ちゃんだし話すけど。おれの能力は精密プレシジョン。ゲームする奴にとっちゃ、必須な能力だろー?寸分たがわぬタイミングで敵に攻撃を叩き込み、当たり判定ギリギリの所を見定めて攻撃を避け、細部まで滞り無く目を見張りアイテムを探す!」


語り口調の未呑に、その能力は絶対もっと他に役立つ事があるんじゃないかと伊達は思った。なんと言う能力の無駄遣い、宝の持ち腐れだろうか。まぁゲームに関しては生き生きとしている彼に、そんな事を言うのも野暮かもしれない。


もし精密プレシジョンの能力を持つ未呑が現実世界で好戦的な性格だったとしたら…恐ろしくて考えたくも無い。


「なるほど、なるほどなんだよ。ひひひ、まさに未呑に相応しい能力なんだよ。」


伊達はこのまま彼が、ゲームのみにその能力を使ってくれる事を信じてそう返した。


「それでー、あたしは回転クレヴァー。」

回転クレヴァー?それはまたよく分からない能力だよ。」


伊達がその能力に興味を示しながらも、周りに集まるモンスターを切り倒しながら疑問符を付けた。


「………ちょい待ち、七色インコ!」


しかし、未呑のその一言にまたもや会話は切断され、三人は戦闘態勢へと入った。


伊達は思う。


小生は一体何をさせられているんだろうか?と

そして、七色インコ…出現しすぎじゃあ無いか?と。

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