第9話 VSカラフルな鳥


ゲームを始めて静かになった二人を見て、伊達もいそいそとそのスイッチを入れた。


ゲーム会社のものであろうロゴマークが黒い背景に映し出された後、何やらオープニングの様な物が始まった。画質が嫌に良く、まるで短編の映画を見ているような錯覚に陥る。


丸くてカラフルなゼリーや、ジャイアントモアの様な鳥、大きな翼を持つ目玉、想像上の生き物達がうぞうぞと草原に登場し、このゲームの主人公らしき青年が大きな剣を持ってその有象無象に挑んでいた。


後ろには杖を持った魔法使い、敵が攻撃を仕掛けてきた瞬間、前に飛び出す盾を持つ屈強な男。遠くから弓矢を放つエルフ、みんながピンチになると登場する回復系の清楚なキャラクター


その後も、酒場で盛り上がるパーティーの様子や、踊り子を見てはしゃぐ様子が次々に映像として映し出された。


なるほど、王道のRPGの様だ。


装備が時々変わるのは、物語を進めていく内に増えるのか…自分で作っていくのかどちらかなのだろう。


モンスターを倒し素材を手に入れ、装備や武器を作る…オープニングを見て分かるのはそれぐらいだったが、伊達にとってはそれぐらいで十分だった。


ゲーム内でやらなければいけない事はほぼオープニングで理解したのだろう、伊達は一呼吸おいてスタートボタンを押した。


ティロリリン!


そんな軽く短い音と共にゲームは開始される。


最初は自分のキャラクターを作る画面だった。伊達はローマ字入力しか出来ない名前の欄に"DATE"と入れる。そして、不覚にもデートと読めるその綴りに一人で微笑しながら、キャラクターの見た目を決めていく。


正直、こう言うのは適当で良い。ゲーム性に見た目など関係は無く、どんな見た目で始めようが操作性も内容も変わりないのだ。寧ろここで時間を取られる方が馬鹿馬鹿しいってものだろう。


伊達は適当にボタンを連打してキャラクターを制作した。単発の黒髪に、キリリとした目元、中肉中背のごく一般的な体格───


「ひひひ…何処まで行っても月並みかよ。」


余りに普通過ぎる見た目に、伊達は声を漏らした。


「伊達ー?10分後にアニス渓谷に集合なー」


独り言が聞こえたのか、午は伊達に声を掛ける。アニス渓谷とは?集合とは?疑問ばかりが浮かぶが、始まったゲームの序盤に現れたモンスターを倒しながら伊達は答える


「了解なんだよ。」


10分あればそれこそ十分だ。アニス渓谷が未だにどこか分からないけれど、進めていればその内行けるようになる手短な場所なのだろう。


それに、1日で追いつけと言われたこのゲームにおいて、10分後に集合とは……きっとそのアニス渓谷とは最終目的地では無いのだろう。ならばと判断する方が正しい。


アニス渓谷に10分で辿り着けるのか。それが今後の伊達の命運を左右しているに違いなかった。



「あれ?伊達ちゃんってこのゲームした事あんの?」


そんな伊達を未呑は不思議そうに見た。珍しくゲームの手が止まっている。そして、隣の午が大きく舌打ちしたのを聞いて、二人でモンスターを倒しに行っている最中では無いのか、と伊達は考察した。


「いやいや小生、ゲームってものはさっぱりだよ。ただ…このゲームは序盤、山からのスタートなんだよ、ひひひ。ゲームの世界はさっぱりだけど、現実的に考えて山の近くには渓谷があるんだよ。10分後って言えば…割と序盤で辿り着ける場所だしねぇ。」


そして伊達は続ける


「それにこれ…モンスターを攻撃してる途中にっ、こうやって次の攻撃動作を入力するんだよっ…ホラ!」


伊達は序盤の山に現れる狼のようなモンスターを倒した画面を未呑に見せた。


「うわっ、まじかよー…おい、午……ゲーム初心者の癖にはめ技使ってるんだけど!」

「なぁー?言ったろー?」


驚きながら振り向く未呑に、愉悦した笑みで答える午。まるでこうなる事を予想していたかのような表情だった。


「こいつの能力は"要領クレェヴァ"。あたし達にとっちゃ、一番ありがたい能力なんだよーあぁーだるいわー」

「え、伊達ちゃんって能力使えんの?十二支じゃないのに?」


眉間に皺を寄せながら伊達を見る未呑に、ひひひと不敵な笑みを向ける伊達は、サクサクとゲームを進めながら言った


「それでこそ小生の要領クレェヴァなんだよ。」


と。

神に、毎月来る一日ついたちを貰ったあの日、十二支しか貰い得なかった能力を伊達は意図せず貰っていた。そもそも一日ついたちを貰えたこと自体、彼が要領良く生きていた結果なのだろう。


しかしてその元々あったであろう要領の良さは、神の力によって能力となり、少なからず伊達に今まで以上の恩恵を与えていた。


「確かにそりゃー…要領良い話だ。」

「ひひひっ、それでお前さん達、小生はアニス渓谷に着いたんだよ。何のクエストを手伝えばいいのかよ?」

「おぉー、6分か…余裕だなぁー」


話しながらもゲームを進めていた伊達は、予定された10分よりも早く指定された場所に到着した。まだまだここは序盤であり、強いモンスターも現れるような場所では無い。


なぜ、午と未呑はわざわざ伊達を借りてまで参加させたゲームで、この場所を指定したのか。別段、このレベルのモンスターなら、伊達より長くこのゲームをやっている2人の事だ…さくさくと手軽にモンスターを狩れるはずだ。


「このアニス渓谷にはなー……」


午は勿体ぶりながら話す。


「レアモンの七色インコが出るんだよ。」

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