将来有望だった俺は騎士団を追放された、だからカワイイ幼馴染と共に冒険者として人生を歩むことにしよう

Tea

第1話 追放された騎士

「お前にはこの騎士団を抜けてもらう」


 俺は騎士団長からそのように告げられた。

 正直言えば、いずれこの日がくるだろうなと予想していたし、この騎士団にも未練はない。

 いや、未練はないが恨みはある。


 俺が在籍している騎士団は「金蕾の騎士団」と呼ばれる騎士団だ。

 表向きは将来有望な若者を集めた騎士団であり、他の騎士団と共闘することにより経験を積むことが目的とされている。

 ただ、現実はそうじゃない。

 大した実力もない奴らで溢れている。

 なぜそんな現状になっているかというと、貴族の息子というだけで裏口入団したような奴らばかりだ。

 貴族からすれば、若くして騎士団に在籍していた経歴があれば将来的に王都の近衛兵にでもなって悠々自適に暮らし、戦場に出ないで済むと考えているのだろう。


 今、世界には魔物といわれる生物が溢れている。

 数年前に魔界と呼ばれる領域から魔物が溢れ出てきたのだ。

 それは凄まじい数だったらしい。

 今や日々世界中で魔物による被害が報告されている。

 このままでは人類絶滅を迎えることだって考えられるのだ。

 騎士とは人々を護るために存在するのではないのか。

 それなのにこの腐った騎士団はなんなんだ。

 俺は内心で溜息をついた。


 しかし、俺も他の奴らの例に漏れず貴族の出身だ。

 でも裏口入団なんてしていないはずだ。

 父さんはそんなことするような人じゃない。

 そこまでして俺に騎士になって欲しいとは思ってないだろう。


 俺の父さんは騎士だった。

 それも騎士団長を務めるような人だ。

 貴族の出身ではあったけど、父さんは実力で成り上がった。

 それほど父さんは強いのだ。

 このまま行けば次期王国騎士団元帥も間違いないと言われていた。

 俺の憧れの父さんだったんだ。


 しかし、父さんは突然騎士団を辞めてしまった。

 騎士団長という名誉ある立場を投げうってまで。

 当時は王国中が騒めいた。

 何といっても、実力ある騎士団長が急遽いなくなったのだから当然だろう。

 魔物に怯える人々からすれば自分たちが見捨てられたのではと思ってしまうほどの出来事だったかもしれない。


 何故騎士団を辞めたんだと王国中がざわつく中、父さんはまたしても王国中を驚かせた。

 冒険者ギルドなるものを作り上げたのだ。


 冒険者ギルドとはお金で依頼をこなす場所だ。

 依頼がある者は冒険者ギルドで依頼をする。

 そうすれば冒険者が解決してくれるという至極簡単な組織だ。

 この組織があれば騎士では対応しきれない魔物の被害も冒険者が解決してくれる。

 人々にとっては希望の光にも思える出来事だった。


 だけど、父さんを良く思っていない貴族連中からさまざまな批判が出た。


「騎士とは慈愛の精神を持つ高潔な存在であるはずだ、騎士であった貴殿が人々を救うことに金銭を要求するとは、恥を知れ」


 この物言いには俺も、どの口が言っているんだと思った。

 自分たちは裏金を使い息子を騎士団へと入団させているくせにと。


 父さんが冒険者ギルドを立ち上げてから、俺は騎士団内でいじめや陰口のターゲットにされた。


「あいつ裏切り者の息子だぞ」

「あんなのと一緒に居たら俺たちまで裏切り者扱いされちまうよ」

「消えてくれねえかな、あいつ」


 毎日のようにくだらない罵詈雑言を浴びせられる。

 正直うんざりだった。

 何度も自分から騎士団を辞めようと思ったけど、このまま逃げたら、父さんが裏切り者、なんていう馬鹿げた話を肯定してしまうような気がしたんだ。

 だから俺は耐えた。

 あいつらを殴り飛ばしたいという衝動だって何度も堪えてきた。


 そして今日を迎えたってわけ。

 俺から辞めるわけじゃないし、これは俺の負けではないよな。

 なんていうよく分からない感情も湧き上がってくる。

 俺の追放処分を聞いている騎士団の団員たちはほとんどの奴がニヤニヤしている。

 そんなに嬉しいのかよ。


 俺が団員たちに視線をやっていると、


「聞いているのか、シグルズ・パール! お前に行っているんだぞ!」


 と団長がイラついた口調で問い掛けてくる。

 もちろん聞こえているに決まっている。


「はい……。聞こえています」

「ならばすぐに返答しろ! 今まで貴様は騎士団で何を学んできたのだ!」

「申し訳ありません」


 団長は激昂している。

 こいつだって家柄というコネを使って団長なんて立場になっている。

 だから実力なんて皆無だ。

 そこら辺の一般の騎士の方が強いんじゃないかと思ってしまうほどに。

 そして武力もなければ知力もない。

 そもそも団長という器じゃないのだ。

 騎士団の団長には武力ではなく知力や策謀を武器にする人だっている。

 そういう人が指揮する騎士団は強い。

 だけどこいつはそんな大層な作戦が練れるわけでもない。

 最悪なことに、こいつは位が高い貴族の言いなりになっているだけなのだ。

 私の息子を活躍させろと言われれば、ハイ喜んでと作戦を立てる。

 それは作戦と呼べるような代物ではなく、何度も命の危険に陥った。

 こんな奴が騎士団長になれてしまう現状を変えることが平和への一歩なのではと考えてしまう。


 考え事をしている俺に対して団長は言葉を紡ぐ。


「もう一度だけ言うぞ。貴様は今日をもって金蕾の騎士団から除名する」

「……分かりました」

「ほう。えらく物分かりがいいじゃないか。感心したよ」

「……」

「では今すぐ荷物を纏めて去りたまえ」


 こうして俺の騎士としての人生は終わりを告げた。

 いや、騎士として生きていくことは可能だろう。

 現在俺が騎士団と二足の草鞋で通っている騎士学校を無事卒業すれば騎士になることはできるはずだ。

 でもそれで騎士になったところで俺への扱いは変わらないだろう。

 屑みたいな貴族は王国にたくさんいる。

 俺が騎士になれば一生階級は上がらず、どこか遠い村に左遷されるだろう。

 そんな未来はまっぴらごめんだ。

 だから俺の騎士としての人生はここで終わり。

 短い騎士人生だったな。

 まだ十数年しか生きていないというのに。


 でもクヨクヨ悩むのは良くない。

 父さんだって騎士という立場をスパッと辞めたんだ。

 だから俺も新しい人生を送って行こうと思う。


 そうして俺は騎士の鎧や剣などを投げ捨ててその場を去るのだった。

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