流行りに便乗したいというのに

以星 大悟(旧・咖喱家)

流行りに便乗したいというのに

 自慢ではないが私の家には三匹のぬこがいる。

 真っ黒でよく美人だと言われ雄だと言うと驚かれる男の娘な猫「福」。

 気が優しく三匹の中では一番の気遣いやな「来」。

 そして天上天下唯我独尊、元野良でありながら引き取った初日から野生を捨て自分は犬だと勘違いしている節のあるデブ猫「辰吉」の三匹だ。

 昔はここに豆柴の四つ葉が加わるのだが2年程前に天寿を全うした。

 なので我が家には今、猫が三匹いる。

 普段はこれでもかというくらい甘えん坊だ。

 福と来に関しては目も明かない内に母が拾って来た猫で、姉が寝ずの番をして育てた事もありすごい甘えん坊に育った、どれくらいかと言うと一時間以上撫でても怒らない。

 辰吉は、あの子は元々野良猫だった。

 何時もお世話になっている病院の先生から里親を探していると紹介されたのがきっかけで我が家で引き取る事になったのだが、後の片方の足が無い。

 原付に撥ねられて足が無くなったのだ。

 辰吉を撥ねた奴は病院じゃなくて火葬場に連れて行って、火葬場の人がまだ生きている事に気が付いて病院に運び込まれて一命を取り留めたという数奇な運命を辿って、内の子になったのだ。

 そして亡き四つ葉、本当にあの子は出来た犬だ。

 最初は福と来は辰吉を威嚇していたけど、四つ葉が二匹を一喝して辰吉を自分の弟の様に扱った事で二匹は辰吉を受け入れた。

 そんな思い出を振り返りながら、普段はあんなに私に甘えるのに。

「なぜ、驚かん?」

「「なあご」」「わん」

 胡瓜に驚く姿が見たかった、なのに驚かない。

 野生じゃないからか?いや、辰吉は元野良だから野生が・・・とうの昔に捨てていたか・・・・・・。

 私はスマートフォンの録画を止めて溜息を付く。

 やってみたいじゃないか!猫を飼っているのなら!!

 だが三匹はやってくれない、それどころか齧りやがった。

 何故だ!?坊やだからか!?、いや関係ない。

 とりあえず三匹が好きを見せたら再度挑戦だ。

 私は巧みに三匹にチュールを見せながら視線を誘導する。

 そしてチュールを置いて後ろに回り込み、胡瓜を置こうとした。

「ワオン!!」

 亡き四つ葉の真似をして犬の様に鳴いた達吉は私の手に猫パンチを打ち込んだ。

 鋭い爪が私の皮膚を切り裂く。

「あべし!?」

 悲鳴を上げた私に驚いた二匹はどっかへ行ってしまった。

「何故だ!?」

 私は胡瓜に驚く猫を録画したい、その一心なのに!

 そう思いながら私は自分の手に出来たひっかき傷を消毒する。

 何時か絶対にやってみせると心に誓って。

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