第九話 訓練

アラタは近くにあった木の枝を使って地面に術式を描いていた。

「これをこうして・・・・・」

今は、錬金術の特訓をしている途中だ。

その特訓というのは、土を媒体にしてゴーレムを錬成するというものだった。

錬金術とは何かを媒体にして、術式を書き、そこへ魔力を流して発動させる。

他の魔法であればその必要はないのだが、錬金術はそれを必要とする。

そのため、そういった扱いにくさから最弱魔法と呼ばれているのだが・・・・

そしてアラタは、その錬金術しか使えない。

故に特訓をする。

もっともっと強くならねばならない理由があるからだ。

とある目的のために―――



――これはこれで楽しいからいいんだけどな。



術式組み立て、それを形にし、魔力を流し込む。

そのプロセスを楽しむことができるのは、アラタがこれまで、魔法というものに憧れを抱いていたからだ。

「よし、できたぞ。」

早速完成した術式に魔力を流し込んでいく。

「クリエイト・・・・ゴーレム」

すると、足から順に胴、腕、頭と

見る見るうちに、地面に書かれた術式から一体の人型ゴーレムが現れた。

このゴーレムには、術式を書き込む際に『アラタに襲いかかる』という命令を組み込んである。

まぁ、これも訓練の一環だ。

「ふっ!」

そして、そのゴーレムは現れるや否や、アラタに襲い掛かり、訓練は始まる。





ゴーレムから繰り出される拳を躱しつつ、反撃を試みる。

「はぁぁぁ!」

攻撃を左手で受け止め、がら空きになった右半身へ蹴りを一発与える。

がしかし、そのゴーレムの体は思いのほか硬く、アラタの攻撃を軽々と受け止めてしまった。

「ッ――いってぇ!」

鋼鉄さえも貫く程の身体能力を持ち合わせていたアラタだったが、攻撃を受け止められてしまったのは、

《硬化》という魔法をゴーレムにかけていたからだ。

これは通常魔法の一つなのだが、幼いころから通常魔法を鍛え続けてきたアラタには、それの効力を高めて使うことができた。

アラタはそれを”上位魔法”と呼んでいる。

その上位魔法の効果が強すぎたのか、今のゴーレムは鋼鉄以上の硬度を持ってしまっている。、

「まぁ、この程度で崩れられても訓練にならないからね!」

涙目になりながらそう言ったものの、途中で訓練を辞められるような命令を組み込んでいなかったため後悔している。

だが、後悔させる時間を与えるほどゴーレムもそう甘くない。

右フック、ロ―キック、掌打。

あらゆる攻撃を繰り出すゴーレムにアラタは感心しつつも、その攻撃方法を観察し、自分のものにしようとしている。

その攻撃を受け流してはいるが、アラタもこれ以上対応できる自信がない。

敵の体は鋼鉄以上に硬い。さらに無駄のない洗練された攻撃を繰り出してくる。

一体、この簡単な構造のどこからこんな攻撃が繰り出されるのだろうか?

自分で作りだしておきながら、全くもって理解不能な【魔法】という分野に、ますます興味が湧いてきた。



―――それなら!



何か思いついたアラタは、腰につけていたポーチから光の魔石を一つ取り出す。

今、アラタは自身で編み出した魔法を使おうとしている。

その名も”錬成魔法”。

新たな魔法を作るなど異例中の異例だが、

これは、錬金術と前向きに向き合ってきたアラタだからこそ作ることができた魔法だった。

とはいっても、ただの錬金術の応用だが。

この魔法は、魔石を砕き、

魔石が内包している魔力を対象として錬金術を発動させるというプロセスを経て使うことができる。

取り出した魔石を砕き手の内に魔力を収束させていく。

「光の錬成・・・・・・・」

そうして詠唱を始める。

「閃け光の矢・・・・虚空切り裂き、敵を穿て!!!!」

詠唱を終えると、手の中には一本の光の矢と弓が現れる。。

おぞましいほどの熱量を持った矢を、

アラタはゴーレムに向けて放つ。




《ライトニングライン》!!!




そのスピードに反応できなかったゴーレムは、先ほどまでの硬度が気にならない程、無残に貫かれた。

だが、ゴーレムの貫かれた場所は、たちまち塞がってしまった。

「これは驚いたな・・・・」

驚くアラタだったが、彼の攻撃もまた、そこでは終わらない。

今しがたゴーレムを貫いた光の矢を操り、何度も何度も放ち続ける。



―――もっと、もっとだ!!



ゴーレムに抵抗を許さず、一瞬のスキすらも与えない。

その光景は、まさに蹂躙。

幾重にも重なった光の軌跡が、アラタの異常さをよく物語っていた。


数秒後、下半身のみとなったゴーレムはついに倒れる。

倒れたゴーレムは、物言わぬ土の塊となり果てた。まぁ、元々喋れないが。

そして、辺りには熱量に当てられ焦げた土のにおいが漂っている。

「やりすぎた・・・か。でも、一戦交えた相手として敬意は払わないとな。」

例え相手がゴーレムであったとしても、多くの戦術を教えてくれた師に変わりはない。

一礼をし、帰路に就くいたアラタは、

これが土人形で良かったとつくづく思うのだった。

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最弱魔法の錬金術(アルケミー) Mr.mikel @20011224

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